休み時間。俺はいつも独りだった。
馬鹿な先生。馬鹿なクラスメイト。うんざりする。
別に仲間を探してたわけではないが。彼はいつも、ベランダから独りで校庭を眺めていた。
なんとなく感じる、仲間意識。だが、それは自分が淋しいのだと証明している気がして、俺はどうしても踏み出せないでいた。
そのまま2年半が過ぎ、気がつけば俺は5年生になっていた。
あの時からずっと変わらない、休み時間の風景。彼は今日もベランダで、校庭を眺めている。
背中から伝わってくる楽しげな空気。その理由を俺は知らない。知りたいとは思っているのだが。
今日こそは話し掛けてみようと思い、俺もベランダに出る。横目で見たその横顔は、微笑っていた。
「楽しそうだな」
「うん。だって、楽しいからね」
話し掛けた俺を見てふわりと微笑うと、彼はまた校庭に視線を戻した。
その先では、下級生たちがサッカーをしている。こいつらを見て、一体何が楽しいというのだろうか?
「キミは、いつもツマラナイって顔をしてるよね」
視線は校庭に向けたままで、彼が言う。
「詰まらないさ。馬鹿ばかりで」
溜息を吐く。そんな俺を見て、彼はクスクスと笑った。
「ニンゲンが嫌いなの?」
「別に。馬鹿が嫌いなだけさ」
「ふぅん。じゃあ、僕のことも嫌いなんだ」
彼の笑いはまだ続いている。それは嘲りとかそう言うのではなく、単純に楽しそうな笑い声。
「不二くん、だっけ?」
「不二でいいよ。佐伯くん」
「……佐伯でいいよ」
なんとなく、顔が赤くなる。同じクラスになって2年半も経つのに、今更自己紹介なんて。馬鹿げていると思う。
「で。何?」
ふわりとした笑顔を向けると、彼は話の続きを促してきた。
赤くなった顔を戻すために、大きく深呼吸をする。
「えっと…」
その深呼吸が逆効果だったらしい。俺の顔はどんどん熱くなり、心臓の音も速まった。
なんとなく、告白をする前のような気分になる。
掌に人と書いて飲み込むなんて馬鹿らしいことは出来ないから、俺は拳を強く握り締めた。
「……俺、不二のことは、嫌いじゃないよ。ずっと、話してみたいって思ってたし」
やっと言えたという開放感からか、自然と大きな溜息が出る。失態に気付き、俺は慌てた。溜息なんか吐いたら、今の言葉が嘘に聴こえてしまうじゃないか。
恐る恐る、彼の顔色を窺う。その顔が曇っていることを想像して。けど。
「……ありがと。」
目が合った彼は、呟くと優しく微笑った。