この時間。この場所で。俺はいつも煙草をもみ消す。辺りに煙草の灰が散らばっていないことを確認すると、携帯用の灰皿を鞄にしまった。さっき煙草と一緒に買ったガムを取り出し、口の中に一枚放る。
 時計を見る。あと五分くらい、か。
 ガムの味がなくなってきた頃、道の向こうから歩いてくる緋い影を見つけた。立ち上がり、紙に吐きだしたガムをごみ箱に放り投げる。
「あ。亜久津!」
 俺より大分遅れて気づいた奴は、小さく手を振ると走って道を渡ってきた。
「ごめん、今週から週番だったの忘れてて…。えっと、その…待ったかい?」
 俺は大袈裟に溜息を吐いて見せると、息を切らせている奴の頭を小突いた。
「ったく、何分待たせりゃ気が済むんだよ。オメーはよぉ」
「…ゴメン」
 頭を押さえうな垂れる奴に、俺は頭を抱えたくなった。ったく。冗談なのに、いちいちそんな顔されちゃたまんねぇっつーんだよ。
「別に。本気で怒っちゃいねぇよ。どうせ他に行くところもねぇしな」
「でも…」
 顔を上げ、俺を見つめると奴は言った。
「やっぱり悪いよ。だからさ、今度から亜久津の家でやろうよ。おれ、亜久津の家まで行くから」
「俺ん家?」
 呟くと、俺はこの前コイツを家に連れてきたときのことを思い出した。あの時の優紀の嬉しそうな顔といったら…。思い出すだけでも腹が立つ。
 ……そうだ。この『勉強会』だってアイツの発案だ。きっとそうに違いない。俺に高校受験をさせるために。俺がコイツの誘いを断れないと知ってて。
 それで俺がコイツを家に連れていったら、それこそ優紀の思うツボじゃねぇか。茶化されるに決まってる。それだけは死んでもゴメンだ。
「それは駄…」
「なぇ、亜久津」
 俺の言葉を遮るようにして言うと、奴は俺の手を掴んだ。
「河村?」
 俺に触れた奴の手はとても温かく。何故か、顔が紅くなった。
「ここで立ち話もなんだからさ、中、入ろう。おれ、ノート買いたいし」
 白い息を吐きながら言うと、奴は俺の手を引きそのドアを押しあけた。

 雑誌を読みふけっていると、突然、肘でつつかれた。見ると、レジを済ませた奴が隣に立っていた。
「それで、さっきの話なんだけどさ…」
 店の中だからなのか、奴は少し声のトーンを落として言った。
「ああ。あれは駄目だ。俺ん家は、却下だ」
 つられて俺の声も小さくなる。
「何で?」
「優紀が邪魔しに来るからに決まってるだろーが」
「そうかなぁ。あの優紀ちゃんがそんなことするとは思えないんだけど…」
 呟く奴に、俺は溜息を吐いた。
 やはり。発案者はアイツのようだ。このままだと俺の家での勉強会になりかねない。
「とにかく、駄目なモノは駄目だ」
 少し強めに言う。
「そっか」
 奴は残念そうな顔をしてうな垂れた。ったく。世話やかせんじゃねぇよ。雑誌をラックに戻し、奴の頭を軽く叩く。
「んな顔してんじゃねぇよ、オイ。さっさと行くぞ。このままじゃ俺が何のために待ってたかわかんねぇだろーが」
「……うん。そうだね」
 俺の言葉に少し安心したように奴が頷く。その顔に安心した俺は、奴の手を引くと奴が押し開けて入ってきたドアを今度は俺が押し開けた。

「あ。そうだ」
 少し歩いたとき、奴が思い出したようにコンビニの袋をあさった。
「はい」
 笑顔と共に手渡されたのは温かい缶コーヒー。
「今日は随分と待たせちゃったみたいだからね」
「そんなに待ってねぇって…」
「本当は寒かったんだろ?さっき、耳、真っ赤になってたよ。手も冷たかったし」
「………。」
「だから。お詫び。ね?」
 奴が微笑う。
「………サンキュ」
 呟くと、俺は紅くなった顔を隠すようにして、コーヒーを飲んだ。





粒ガムより、板ガムの方が好き。

いつになったら亜久津くんは自分の気持ちを告げることが出来るのでしょうか?
…いやいやいや。総てはアタシ次第なんですけどネ(笑)
そんなこと言ったら、モトモコモナイでしょーにι
アクタカのタカさんは、ノーマル仕様です(笑)



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