「ねぇ。そんなモノの何が楽しいの?」
 後ろで大人しく本を読んでいると思ったのに。読み終わった途端、いつもこうだ。
「ねぇ。僕、つまんない」
 俺の頭に顎を乗せ、腕を回してくる。
「……不二、重い」
 俺は画面を見つめながら呟いた。それは聴こえているはずなのに。
「ねぇ。楽しい?」
 俺に容赦なく体重をかけてきた。ああ。もしかしたら、聴こえているから、なのかもしれない。
「不二。あと少しで終わるから」
 腕を解き、振り返る。
「あと少しって、どれくらい?」
 不二は俺の額に唇を落とすと、膝に座ろうとしてきた。慌てて方向転換をする。
「明日、この練習メニューの案を竜崎先生に提出しなきゃならないんだ。だから…」
「わかった。もういいよ」
 刺々しい口調で言うと、不二は俺から離れた。PCの画面に僅かに映った顔は、呆れているようにも見えた。
 まあ、それはいつものことだし。
 俺は溜息を吐くと、再びキーを打ち始めた。暫くして、ページのめくる音が聴こえてきた。本を読み始めたということは、俺は余り焦らなくてもいいらしい。読み始めると殆んど時間を気にしなくなるからな。その集中力が、テニスのほうにも反映されてくれればいいのだが。1試合丸々集中していた例がない。ま、そんな不二に俺は勝てないのだから、文句は言えないが。
「よし。終わった」
 PCのスイッチを切ると、伸びをして時計を見た。おかしい。予定では37分で終わるはずだったのだが。
「乾のちょっとって、1時間弱なんだ」
 ベッドの上で胡座をかき、怒った眼で俺を見る。
「ちょっと、予定が狂ってな」
 俺はその眼から逃げるように背を向けると、先ほどプリントアウトした練習メニューを手に取った。
 おかしい。不二は本を読んでいたのではなかったのか?
「乾さ。本当に僕が読書をしているとでも思ったの?」
「え?」
 その声の近さに驚いて、振り返る。
「そんなの、ただの暇つぶしだよ」
 不二は俺の手からプリントを取ると、じっと見つめてきた。その眼が何かを訴えているようで。俺は咳払いを1つすると不二の肩を掴み、触れるだけの口付けをした。
 それに満足したのか、不二は俺に背を向けると、ベッドに座った。
「僕は乾といるときは他のことに夢中にはならないよ」
 散らばった数冊の本を重ね、ベッドサイドに置く。
「だが、実際にお前は本を…」
「だから、ただの暇つぶしだって。内容なんか、大して頭に入ってないよ」
 そういって、積み重ねた本の中から一冊を俺に見せた。
 …確かに。ただの暇つぶしのようだ。不二は天文学に興味があることは知っていたけれど、医学書なんて…というか、どこからそんなもの持ってきたんだ?
「乾の部屋って結構汚いよね。2ヶ月くらい前に僕が持ってきたんだよ、この本。気づいてなかったんだね」
 クスクスと微笑うと、不二は本を戻した。
「今度、掃除してあげるよ」
 俺の山積みになっているデータたちを指差す。
「一応、俺としては整理整頓しているつもりなんだがな」
 俺は不二の隣に座ると、同じくごちゃごちゃに整理されているノートやメモの山をに眼をやった。
「ああ。よくいるよね。汚い部屋を、自分なりに整理しているんだって言い張るヒト」
 また、微笑う。機嫌を損ねてたんじゃなかったのか?
「でさ。話、戻すけど」
 なんて思っていたのが悪かったのか、不二は微笑いを止めると、俺の方を向いた。思わず、喉がなる。
「僕が傍にいるのに、何で乾は他のことに夢中になれるの?」
 一瞬、胸がズキリと痛んだ。それを見透かすように、不二が俺の手を握る。
「2人きりの時くらい、僕に夢中になってよ」
 唇を重ねると、不二は俺の体をゆっくりと押し倒してきた。
 唐突に理解する。色々なこと。試合に集中できないのは俺のせいだからなんだとか、こんなに想われているのに俺はずっと淋しい想いをさせていたんだとか。そんな当たり前のこと。
「悪かった。もうしないよ」
 俺の首筋に顔を埋めてくる不二に苦笑し、その頭を軽く撫でた。
「うん」
 その頷き方が妙に子供っぽくて笑えた。と。首筋に感じる熱と痛み。
「ふ、じ?」
「僕を待たせた罰だよ」
 体を離した不二は、見上げる俺にクスリといつもの笑みを見せると、熱っぽい口付けをしてきた。





うちの不二くんは天文学が好き。宙(ソラ)が好き。
AZUKI七サンの『80,0』という本の中の『OUT』というのが基になってます。
最後に不二くんの黒さをちょっと出してみました。
そんなカンジで。



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