「なー。不二ぃ」
「んー。なぁに?」
 お昼時。僕と英二は向かい合って食事を摂る。食べ終わった後は、たいていそのまま談笑。
 ……なんだけど、今日の英二は、少しばかり浮かない顔。
「どーしたら、大石が俺んとこに飛んできてくれると思う?」
「……何、それ」
 いまいち内容のつかめないトークに、僕は手塚のように眉間に皺を寄せた。
「だからぁ」
 溜息をついて、頬杖もつく。空いている英二の手は、僕を指差していた。
「不二はさ、手塚のピンチにはすぐに駆けつけるじゃん」
「………うん」
 別に、手塚がピンチだからってわけじゃないけどね。
「にゃのに、おーいしは俺がピンチのとき、ぜーんぜん助けに来てくれにゃいんだよね」
 はぁ、と大きな溜息をつくと、英二はそのまま僕の机に突っ伏してしまった。
 2人で1つの机を使ってるんだから、そんな風にされたら、僕の手の置き場所がなくなるんだけどな。まあ、別に机に置いとかなきゃ嫌だっていうわけじゃないから、いいんだけど。
「なー。どーして不二は手塚のピンチがわかんの?アンテナかにゃんかついてんのぉ?」
 弱々しく、机に向かって呟く。
 多分、英二が言ってるのは、今日の朝練のことだろう。
 不可抗力で英二は朝っぱらから手塚にグラウンド20周させられた。そのとき、肝心の大石はスミレちゃんと話し中だったんだよね。
「僕は別に、手塚のピンチがわかるわけじゃないよ。ただ、一緒にいたいって思って会いに行ったときに、たまたま手塚がピンチだったりするだけで」
 言いながら、僕は苦笑した。手塚がピンチになることは少ない。どっちかって言うと、僕がトラブルメイカーで、彼のピンチを作ってしまってるような気がするな、なんて。
「もー、どっちでもいいよぉ…。おーいしのばかぁ…」
 呟く英二の上に、影がかぶさった。手が伸びてきて、英二の体を起こす。
「誰が馬鹿だって?」
「おーいし……?」
 驚きに眼を丸くする英二に苦笑すると、大石は英二の隣にあった空席に腰を下ろした。
「にゃんでここにいるの?」
 別に寝ていたわけでもないのに、英二は何度も目をこすって大石を見つめた。
 そんな英二を見て大石は苦笑すると、僕とその隣に眼をやった。
「不二……」
「ん。ありがと」
 隣から振ってきた声に、言葉を返す。空いている席はないかと周りを探したけど、生憎と椅子は空いてなくて。
「オレはここで構わん」
 小さな溜息をつくと、彼は僕を押し退けて、椅子に半分だけ腰掛けた。と、教室中の視線が僕たちに集まる。
「手塚…見られてる、けど?」
「構わん」
「そ。」
 呟く手塚に僕は微笑うと、触れている手を机の下で握った。手塚の顔が、さらに赤くなって、でもそれに気づいてるのは僕しかいなくて、何だか可笑しかった。
「どゆこと?」
 そんな僕たちのやり取りをみて、英二は口を開いた。大石は、不思議そうな目で僕たちを見てる。
「おれは、手塚が不二に用事があるっていうから」
 言うと、大石は手塚を見た。
「そうなの、手塚?」
「いいや。オレは大石に付き合ってここに来ただけだが?」
 僕の言葉に、手塚が首を横に振る。
「そうにゃの?大石?」
「いや、おれは手塚に――」
「心配だったんだね、英二のこと」
 嘘を吐いたと思われるのが嫌なのか、手を胸の前で振りながら慌てて否定しようする大石の言葉を遮るようにして、僕は言った。
「え?」
「なっ…」
 英二と大石が同時に声を上げ、僕を見つめる。僕は微笑うと、手塚に目配せをした。
 手塚が、小さく咳払いをする。
「移動教室のとき菊丸を見かけたらしくてな。そのときお前が落ち込んでいたから、心配していたそうだ」
「そうにゃの?」
 手塚の言葉に顔を明るくした英二は、嬉しそうに大石に訊いた。
「だから違うって…」
 そろそろ、僕たちの思いやりをわかってくれてもいいようなものなんだけど。
 鈍感な大石は、それでも嘘を吐きたくないと否定した。そんなだから、英二が落ち込んじゃうんだよ。
「はーいはい、照れない照れない」
「不二っ、いい加減に…」
「大石。」
 きつい口調で、大石を呼ぶ。彼と眼が合うと、僕は優しく微笑って見せた。
「…いくら独りで英二のところに来るのが恥ずかしいからって、手塚を巻き込んじゃ駄目だよ」
「………わか、ったよ」
 やっとわかったのか、それとも僕の気迫に押されたのか知らないけど、大石は頷くと英二と向かい合った。
 やっと、一安心の溜息。
「お邪魔みたいだから、僕たち、ちょっと日向ぼっこしてくるよ」
「うん。いってらっしゃーい」
 手塚の手を引いて立ち上がった僕に、英二は嬉しそうに言うと手を振った。僕も小さく手を振り返すと、そのまま手塚と二人で屋上へと向かった。



「……あんな感じでよかったのか?」
「うん。ありがと。でもよくわかったね」
「移動教室のときに菊丸を見かけたのはオレだ」
「ああ。なるほどね。それで僕が英二に愚痴られると思って助けに来てくれたんだ」
「原因はわかりきっているしな」
「ふぅん。……でも、知ってる?」
「何だ?」
「英二が落ち込む原因を作ったのは本当は手塚で、その切欠を作ったのは僕だってこと」
「………っ!?」
「たまには、君のほうから僕のところに来て欲しかったんだよ」
「………馬鹿」
「うん。」





策士・不二周助。
不二のお気に入り→菊丸英二。
NOT不二菊。



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