さっきから、気になる視線。日誌から顔を上げると、蒼い眼に捉まった。
「……おれを見て、楽しいか?」
「うん」
溜息混じりに言うおれに、嬉しそうに頷く。
書き終えた日誌を閉じ、シャーペンをしまう。溜息を吐き、窓の外を見た。
「だいぶ、日が延びたな」
「……うん」
上の空な声。視線を戻すと、相変わらずおれを見つめていた。その眼に、思わず顔が赤くなる。
「あまり見るなよ」
「……なんで?」
あまりにも普通に訊いてくるから。一瞬、おれの感覚がおかしいのかと思ってしまう。
でも、そうじゃない。おれの感覚はきっと普通だ。たぶん、普通だ。
咳払いをし、見つめなおす。自分の頬が赤く染まっている気がした。
「………恥ずか、しい。だろ?」
「そうなの?」
あっさりと返す。おれの言っていることが理解できないとでも言うように。
溜息が出る。理解できないのは、おれのほうだ。
「じゃあ、もしおれがずっと見てたらどうする?」
「嬉しいよ」
眼を細めて、微笑う。頬杖をついていた手を顔の前で組むと、軽く顎を乗せた。また、微笑う。
「ああ、君は本当に僕のことが好きなんだなぁ、って思えるしね」
……呆れた。
今日何度目かの溜息を吐くと、おれは窓の外へと視線を移した。
それでも感じる、眼差し。
「なぁ。何がそんなに楽しいんだ?」
眼が合うと顔が赤くなる恐れがあるから、夕日を見たまま問いかける。
「……万華鏡だよ」
「え?」
意味不明な言葉に、思わずその顔を見つめ返す。
しまった、と思ったときには既に遅く。おれは再び捉えられてしまった。
蒼い眼が、クスリと微笑う。
「君は気づいてないと思うけど。その緑色、周りの色を吸収して七色…ううん、もっと沢山の色に変化するんだ」
組んでいた手から顎を離すと、おれの眼を指差した。
「一度だって同じ輝きをしない。万華鏡みたいにね」
おれを指差していた手が開かれる。近づいた指先が、おれの頬に触れた。少し遅れて感じる、別の温もり。
「……君の眼を見ていると、落ち着くんだ」
唇を離すと、蒼い眼が優しく微笑った。