「猫じゃらし」
「へ?」
 先輩の声と共に、俺の目の前には緑色が広がった。それが鼻を掠める。思わず、クシャミ。
「ほーらほら、リョーマくん。こっちだよー」
 その緑を遠ざけると、先輩はガキに言うような口調で言った。ムカつくから、それを先輩から取り上げた。
「何?それで遊びたいの?」
 猫じゃらしを手にした俺を見て、楽しそうに微笑う。その手には、愛用のカメラ。
「……もしかして、写真撮ったんスか?」
「うん」
 ………いつの間に。
 俺は大袈裟に溜息を吐いてみせると、手に持っていた猫じゃらしを投げ捨てた。
「あーっ。駄目だよ、捨てちゃ」
 慌てて、先輩がそれを拾う。
「別にいいじゃないっスか。猫じゃらしなんてどこにでもあるんスから」
「どこにもあるけど、この猫じゃらしは世界にひとつしかないんだよ?」
 意味不明なことを言い、猫じゃらしについた土を掃うと、先輩はまたそれで俺の鼻をつついた。
「だーっ、もう、やめてくださいよ」
「あ。じゃれてるじゃれてる」
「じゃれてるんじゃないっスよ。あーっ、もう、鬱陶しい」
 また取り上げようと手を伸ばす。
「駄目だよ。そうやってまた捨てる気でしょ?」
 俺の手よりも早く先輩は反応すると、猫じゃらしを上に掲げた。
 悔しいけど、そうされると手も足も出ない。ジャンプして取り上げるほどのことでもないし。
「可愛いね、リョーマは。猫みたいだ」
「可愛くないっすね、先輩は。意地悪だ」
「周助って呼びなよ」
「どっちでも同じでしょ」
「違うよ。先輩なんてどこにもいるけど、不二周助は僕だけしかいないんだから」
「……何、ソレ?」
「さーて、何でしょう?」
 頭にハテナを浮かべた俺を見て、クスクスと微笑う。馬鹿にされてるわけじゃないってわかってるんだけど、なんかムカつく。
「周助の考えてることがわかる奴なんているんスかね?」
「いるよ。」
「へ?」
 意外な返事に、俺は変な声を出してしまった。いるんだ。この人のこと理解できる奴。
「誰だか気になる?」
「べ、別に」
 気になるけど。そんなこと言えない。だって、妬いてるの?とか言われそうだし。
「妬いちゃう?」
 言わなくても、言われた。なんか、考えを読まれてるみたいでムカつく。
「別に」
「あのねー。僕の考えてることがわかるヒトって言うのはねー」
「別に知りたくないっすよ」
「……じゃあ、教えない」
「え?」
「だって、知りたくないんでしょ?」
「………ケチ」
 視線を伏せて呟く。先輩はクスリと微笑うと、俺の頭に手を乗せた。優しく撫でる。
「僕の考えてることがわかるのは、僕自身と、リョーマだよ」
「なんスか、それ。俺、アンタの考えてること全然わかんないんスけど」
 中腰になってるから、俺は正面を向くだけで先輩と目を合わせることが出来た。
 でも、それは一瞬で。先輩は俺と眼があったのを確認すると、優しく微笑い、姿勢を正した。それと一緒に、俺の視線も上へ。
「だから、僕が考えてるのはリョーマのことだけってこと」
「はぁ?」
「じゃ、行こっか。カルピンが待ってるし。そうそう。これ、カルにプレゼントしようね」
 再び頭にハテナを浮かべた俺の手を握ると、先輩は楽しそうに歩き出した。引き摺られるようにして俺も歩く。
 大事そうに猫じゃらしを持ち、楽しそうに鼻歌を歌っている先輩を見て、俺の混乱は溜息と共に外に吐き出された。





こういうリョーマが好き。翻弄される感じ。理想の不二リョ。



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