もう、何度も見ている夢。誰かに首を締められ、ゆっくりと殺される、夢。
 悪夢だと思うのだが、そこに恐怖などなく。伝わってくるのは、温もりと、切なさと、涙。
 最期にそいつが放った言葉が、どうしても思い出せない。


「……手塚。どうしたの?」
 突然伸びてきた腕に、強く抱きしめられる。眠っていたのだとばかり思っていたので、思わず体が揺れた。
「不二…」
「怖い夢でも見た?少し、汗ばんでるみたいだけど」
 不二の体が、背中にピッタリとくっつく。オレは小さくうなずくと、自分に回された不二の腕に触れた。
「どんな夢?」
「………よく理解らない」
「そっか。夢って意識してないとすぐ忘れちゃうもんね」
 クスクスと微笑い、オレの首筋に唇を落とす。
 そういう意味ではない。忘れたのではなく、理解らない夢。
 何故オレは、殺されると知りながらも、軽い安らぎすら覚えていたのだろう。
「ねぇ、手塚。僕のこと、好き?」
 突然の低い声に、夢世界から現実世界へと引き戻される。
「……なんだ急に」
「いいから答えて」
 呟くと、オレの体を強く抱きしめた。首筋に、顔を埋めてくる。
「答えて…」
 切羽詰ったような声。違和を感じる。こんなの、いつもの余裕のある不二じゃない。
「どうしたんだ、一体」
「………」
「……不二?」
「好きだよ。僕は。手塚のことが、誰よりも好き」
 はっきりとした意志をもって言うと、不二はオレの肩を掴み仰向けにした。オレの身体にまたがり、見下ろす。
 無気味に光る、蒼い眼。
「好きだよ、手塚。愛してる」
 オレの頬を包み、深く口付ける。オレは眼を閉じて、それを受け入れた。
 口内に侵入してくる舌に、理性を絡めとられそうになる。熱が、再び沸き上ってくる。
 遠くなった意識の中、不図、気付く。不二の言葉。愛、などと、一度も口にしたことはなかった、と。
「……ん。ふっ…」
 長すぎる口付けに、息が止まりそうになる。苦しい。
 ……苦しい?
「ふぁっ」
 唇が離され、オレは眼を開けた。不二の手は、いつの間にかオレの頬から首へと移動していた。
「……っぐ」
 徐々に、その手に力が入る。オレの苦しみが、ゆっくりと増して行く。だが、それは呼吸が出来なくなるというものではなく。頭に血が回らなくなる感じ。顔が熱い。
「ふ、じ…やめろ。……離せ」
 不二の腕を掴み、自分の体から剥がそうとする。が、どう足掻いても、動かない。
 オレを見下ろす不二の口元に、薄っすらと笑みが浮かんだ。
「愛してるよ。誰よりも。何よりも。だから、死んで」
 その眼は、狂気に満ちていて。魅入ってしまいそうになる。この男から確実な殺意を感じながらも。
 ただ、理由が理解らない。不二の行動の理由が。今のままでは、オレたちは駄目なのか?
「なっぜ…こん、ぁことを?」
「好きだから。愛してるからだよ」
 呟く不二の眼に、不安の色が広がる。
「怖いんだ。君が僕を置いてどこか遠くへ行ってしまいそうで」
 不二の手に、更に力が込められる。いよいよ、呼吸をするのが難しくなってきた。目から、生理的な涙が溢れてくる。
「オレは…どこに、も…かない」
 顔が、熱い。頭がズキズキする。血液が回っていないのかもしれない。思考が、上手く働いてくれない。
「行くよ、君は。……君が、手塚が見ているのは僕じゃない。もっと、遠く。別のもの」
「……れ、は…」
「初めはそれでいいと思ってた。そんな君が好きだった。でも、もう嫌なんだ。我慢できない」
 何が好きで、何が嫌なのか。不二の言葉が頭で上手く繋がらない。だが、不二がしようとしていることは、なんとなく理解った。
 不二に笑みを向け、手の力を抜く。
「……手塚?抵抗しないの?」
 オレの行動が意外だったのか、不二の顔が、いつものそれに戻った。少しだけ、安心する。
「ぉまえ、がっ……望んっだ。こ、だろう…?」
「…………うん。そうだね。……ありがとう、手塚」
 いつもの、優しい口調。不二はオレに触れるだけの口づけをした。不二を見上げるけど、視界がぼやけていて、よく理解らない。
「僕も、すぐ逝くから」
「…あ、あ……。」
 俺を見下ろすその顔が、微笑っていればいいと思う。
「愛してるよ」
 掠れた言葉。オレの意識が遠退く寸前に感じたのは、頬に落ちた、生温かい雫だった。


「………っ」
 唐突に、オレは現実の中に放り出された。呼吸が荒い。身体中を、気持ちの悪い汗が纏わりつく。
 ………夢?
 首に手を当て、感触を確かめる。リアルな夢。
 だが。どんな夢だった?オレは何故今、自分の首を触った?
 ………思い出せないのは、はやり夢だったからなのだろう。眼を瞑り、辛うじて思い出せるのは、自分が殺されそうになっていたこと、優しい温もり、痛いほどの切なさ、安らぎ。そして、涙。
 理解らない夢だ。ぼんやりとした視界に映る影が泣いていたのは確かだと思う。そいつが最期に言った言葉が、重要な気がしたのだが。どうしても、思い出せない。
 と。
「……手塚。どうしたの?」
 突然背後から伸びてきた腕に、オレは強く抱きしめられた。





エンドレス。
自分の昔の物語(蔵飛)をパクった。蔵馬⇒不二、飛影⇒手塚で。
目指せ『世にも奇妙な物語』で。
首締められんの。あれって下手にやられると、ホント、息苦しくなる前に頭がポーっとするよね。んでズキズキしてくる。



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送