僕の背中にあるもの。
 だから、僕は空を飛べない。自由にはなれない。

「何をしているんだ?」
 鍵をこじ開けた屋上。フェンスに座り空を眺めている僕を現実に引き戻すのは、いつも彼の役目。
「空を、見てたんだよ」
 視線を綺麗な青色に向けたままで言う。
 またそれか、とでも言いたげな溜息が聞こえてきた。
「別に、そんなところにいなくても空は見れるだろう?」
 彼の冷たい手が、僕の手に重なった。視線を彼に落とすと、不安げな顔が僕を見ていた。だから。僕は微笑った。
「気持ちいいんだよ。風がきて、さ」
「それなら、向こうで充分だろう?」
 そういって彼が見たのは、屋上の扉の上。梯子がかけてあるから、簡単に登ることが出来る。僕たちが昼食を摂るための場所だ。
「地に、足を着けたくないんだよ」
 僕は、空を飛びたいんだ。
「だったら…」
 呟くと、彼は僕の腕を強く引いた。
「わぁっ」
 後ろ向きに倒れた体を、彼に抱きとめられる。
「これなら、足を着けなくてすむだろう?」
 すまし顔で、彼が言った。
 そういう意味じゃ、ないんだけど。嬉しいから、黙っておく。
 でも、賭けだったのかな。触れているところから、彼の早い鼓動が聴こえてくる。よくよく見ると、彼の顔、少しホッとした感じが出てる。
「な、何だ?」
 僕の視線気づいたのか、彼は少し顔を赤らめると、僕を睨んだ。
「んーん。何でもない」
 クスリと笑い彼の首に腕を回と、朱に染まっているその頬に口付けた。
 幸せすぎて、眩暈がする。
「好きだよ」
 呟いて、彼の肩に顔を押し付ける。
「………不二?」
「好きだよ。」
 守るべきモノが、増える。十字架が、また少し重みを増す。
 思い出すのは、映画のワンシーン。幸せに包まれた彼女は、何故身を投げた?
 今なら、解りそうな気がする。
 彼への想いが、彼からの想いが、十字架となって僕の自由を奪う。
 そのまま飲み込まれてしまえばいいのに。自由への憧れを捨てられないから。
 均衡が崩れる前に。いっそ、幸せの中で死にたい。

 憬れるのは、あの青空。手にしているのは、幸福という名の十字架。
 彼を置いては、どこにも行けない。彼を連れて行くほどの力もない。
 だから。
 僕は飛べない。





映画。見たことはない。粗筋は知ってるけど。
ある曲の元になってると思われる映画ね。
『高く飛ぶ』というお題があることを知らずに書いたからι




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