「………ん。」
唇を離し眼を開けると、彼が上に居た。
「…………何?今日は君が上なの?」
「……ワリーか?」
「別に。役割は変わんないわけだし」
クスクスと微笑い、唇を重ねる。
そう。彼が上に居ても下に居ても。役割は変わらない。見下ろす君と見上げる僕。
でも。だから、せめて…。
「こういうときくらいは、君を見下ろさせてよ」
呟いて、カラダの位置を入れ替える。
「………よく言うぜ。いつも見下ろしてるクセによ」
悪態を吐く彼の唇を、自分のそれで塞ぐ。そして、一枚ずつ、時間を掛けて殻を剥ぐ。
僕の手によって暴かれる。彼の正体。
どこまでも自由なヒト。背中には2枚の翼。こうして見下ろしていても、彼はいつも僕より高い位置に居る。
普通にしていたら、どんなに手を伸ばしても届かないキョリ。掴まえられなくて。掴まえたくて…。
「好きだよ」
この言葉で、彼を地上へと呼び寄せる。そして。カラダを重ねる度に、少しずつその羽根を千切っていく。
もう二度と、自由に大空を飛べないように。僕の元から、去れないように。
計画は出逢った瞬間から。成功は、あと少し。
夢中で僕を求める彼は、それに気づくはずもない。
溺れてしまえばいい。もっと、もっと。
僕は君の処へ昇ることは出来ないから。君が僕の処へ堕ちてくるように。
そして、僕なしでは生きていけなくなるように…。
「……好きだよ。跡部」
刹那い願いを込めて。何度も、囁く。
「あっ……ん、……はっ。ふ、じっ」
苦痛と快楽の狭間で顔を歪め、吐息混じりに僕の名を呼ぶ。
熱に浮かされた彼は、地上よりももっと深くに足を踏み入れていることに気づかない。
もう少しだ。もう少しで、手が届く。
『ねぇ、跡部。僕のこと、好き?』
『さぁな』
彼は絶対に僕を好きだとは言わない。求めてくるくせに、その言葉だけは口にしない。
屈服するのが怖いんだ。一人きりで生きてきた自分が、他人を、僕を必要だという事実を認めるのが怖い。
カラダは、僕を必要だと言ってるのにね。
「ねぇ、跡部。僕のこと、好き?」
汗で張り付いた髪を掻き揚げ、額に唇を落とす。
見つめると、彼は気だるそうにそっぽを向いた。
「………知ってるくせに。訊くんじゃねぇよ」
頬を赤らめ、呟く。その声は、しっかりと僕に届いた。
彼を抱きしめ、喉の奥で小さく哂う。
あと少し。もう少しで、彼の翼は折れる。
落下する彼を抱きとめるのは、僕。そのまま彼を縛り付けるのも、僕。
『好きだ』
彼の口からその言葉が出たら。もう、僕のモノ。
だから。今は、自由に羽ばたかせてあげるよ。そのうち、僕に泣き縋るようになるんだから。
それまでは。
「好きだよ」
「………っん。」
僕が君に溺れてるフリをしといてあげる。