朝っぱらから。僕は大声を上げて笑ってしまった。
「何それ。大和くん、変質者みたい」
 へんてこな格好の彼を指差し、笑う。彼は照れたように咳をすると、僕の指を掴んだ。
「こら。人を指差したら駄目だって、お母さんに教わりませんでしたか?」
 まるで幼稚園児にでも言うような口調。少しだけ、ムッとする。でも、ここは大人。僕はそれを表には出さずに、おとなしく指をポケットにしまった。
「で、それは何の真似?」
 でも、まだ訓練は足りないらしい。僕の笑いは止まらない。
「昨日の昼に、突然、花粉症になってしまいましてね」
 参りましたよ、と頬を人差し指で掻く。僕はその彼の手の反対側に回ると、彼のポケットにお邪魔した。その中で、指を絡めて手を握る。
「だって、まだ寒いよ?風邪なんじゃないの?」
 はぁっ、と息を吐いてみせる。白い、煙のような吐息は、少し上昇するとあっという間に消えた。
「だと、思ったんですけどねぇ」
 足を止め、僕の前にしゃがみ込む。何をするのかと思ったら、彼は僕の額に自分のそれを重ねてきた。
「ほら、熱、ないでしょう?」
 額を離して、微笑う。
 確かに、繋いだ手からも熱っぽさは感じられず。僕を見つめる彼の顔、辛うじて見える皮膚の色も普通だ。とはいえ、いつも彼は蒼白い不健康そうな顔をしているのだけれど。
「でも、その格好は流石に変だよ」
 元々へんてこな眼鏡をしてたのに。今の彼は、その眼鏡の上からスキーで使用するような形の透明のゴーグルをして、口には大きなマスクをしている。ヘアバンドは相変わらずだ。
「そうですかねぇ」
「うん。はっきり言って変質者。僕とこうして並んでたら、人攫いに見えるかもね」
 クスクスと微笑う僕に、彼は困ったような笑みを返してきた。
「ジャージ姿なのにですか?」
「ジャージ姿でもだよ」
「これから朝練に向かう格好には見えませんかねぇ」
「大和くんの無精ひげと猫背が悪いんだと思うな」
 今はマスクのお蔭でひげはそんなに見えないけど。
「ものぐさなんでね。どうしても、朝練が続くと剃り忘れちゃうんですよ」
「じゃ、今度僕が剃ってあげよっか?一緒にお風呂入った時にでも」
 クスリと微笑って見せると、彼は頬を一瞬にして赤く染めた。と、思う。あんなでかいマスクをしてちゃ、顔、はっきりは見えないんだよね。
「……大人をからかうもんじゃありませんよ」
「大和くん今年で十六歳でしょ?まだ子供だよ」
「そういう風に事実を突きつけられたら、言い返せなくなっちゃうんですけどねぇ。もしかしたら、不二くんのほうが大人なのかもしれませんね」
 溜息を吐き、彼が苦笑する。それを、可愛いと思う。三つも年上の、しかも自分よりも大きい男のヒトを。
「やっぱり僕って、変なのが好きなのかなぁ」
 宙に向かって独り言。それが聴こえてしまったらしい彼は、不思議そうな顔をして僕を見た。
「だって、大和くん変じゃない?」
 彼を指差し、微笑う。
「それはボクを好きだって事ですか」
 彼は頬を掻きながら、微笑う。
「うん。変だから好きなのか、好きなヒトがたまたま変だったのか、どっちが先だか判んないけどね。でも、そういう変なトコもひっくるめて、大和くん全部、好きだよ」
 彼の腕を引っ張り、背伸びをして。彼の頬に唇を押し付ける。
 僕は彼から体を離した。
「じゃ。ここでお別れだね」
 彼の通う高校はあっち。僕の通う中学はこっち。朝練に向かうまでの、10分程度のデートは終了。ここから先は、別々の世界。
「お別れって言う表現は、ちょっと淋しすぎやしませんか?」
「じゃあ、なんて言えばいいの?」
「そうですねぇ…『行ってきます』とか」
 人差し指をピンと立てて言う。僕は思わず吹き出してしまった。
「それじゃあ、夫婦みたいだね」
「じゃあ、ボクが旦那さんで、不二くんが奥さんですか?」
「別にそれでもいいよ。夜は反転してくれるなら」
 クスリと微笑う。彼は暫く沈黙したあと、そうですね、と溜息混じりに言った。
「じゃあ、『行ってきます』。」
「ボクも、『行ってきます』。」
 誰も見送るヒトがいない可笑しさに、何となく、二人で微笑った。彼が進むべき道へと方向を変える。
「ああ。忘れてました」
 足を止めた彼は振り返ると、マスクを取った。途端、クシャミが出る。
「……やっぱり、花粉症かもね」
 情けないその姿に、ポケットティッシュを差し出した。受け取った彼は、ちょっと待っててください、と僕に背を向け、鼻をかむ。
「あー。ちょっとの間ですから、鼻水さん、止まっててくださいよ」
 呟いて、僕の肩を掴む。
 触れるだけの、キス。
「これこれ。一回やってみたかったんですよ。行ってきますのチューって」
 呆然としている僕にクスリと微笑うと、彼は急いでマスクをつけた。





※あくまで、不二×大和です。
きゃあ、不二くん可愛い。不二周助、中学2年生。大和祐大、高校1年生です。
不二くんは奥さんだと思う。そっちの方が似合う。しかし主導権は不二。そして夜は夫婦逆転(笑)。




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