おれの恋人はやたらと手の内を明かしてくる。それでも逃げられないおれは、バカなのかも知れない。
「……ここで肩を掴んで…」
先輩の手が、おれの肩を掴む。見つめられて、おれは動けなくなる。別に嫌だというワケじゃねぇから、動く必要もねえんだが。
「………先輩、ちょっと」
近づく先輩の顔を押し退けると、溜息を吐いた。
「何だ?まずかったか?」
「そうじゃねぇっすけど」
「だったら……ここで体を倒して、と」
呟きながら、おれの体を倒してくる。別に嫌じゃねぇ。嫌じゃねぇんだけど、なんか嫌だ。
「あのっすね」
唇が触れる寸でのところで、何とか先輩の動きが止まった。
不思議そうな眼が、おれを見つめる。
「どうした?嫌なら嫌って行ってくれていいんだぞ?俺はそれくらい我慢できるから」
「いや、そういうワケじゃないんすけど」
「全く、我侭な奴だな。何が不服なんだ?」
「だから…その…」
独り言のタチの悪さは、本人が全く気付いてねぇってところだ。今まではそれでも何とか我慢できたけど、この人、だんだん酷くなっててるから…。
「口、噤んでもらえません?」
「何だ?そしたらキスできないぞ?」
「いや、そういう意味じゃなくってですね」
キスだとかそういう単語が苦手だから、それだけでおれの顔は赤くなる。
先輩の胸を押し、体を起こす。
「先輩、独り言が多すぎなんですよ」
「……何のことだ?」
「だからっ」
あーっ、もう。全部言わないと駄目なのか?
「その、体を倒すとか、ここでキスをするとか…そういうこと。兎に角、考えてる事が全部口に出てるんすよ。恥ずかしいから、やめてくれません?」
言ってるこっちが恥ずかしくなって。おれは思わず先輩から顔を背けた。途端、聞こえてくる笑い声。
「……な、なに笑ってんすか」
やたらとでかい笑い声。馬鹿にされてるみたいで、イラつく。だから、キッと先輩を睨みつけて見た。だが、こんなこと、この人には通用しない。案の定、まだ笑いつづけてやがる。
「なぁ、海堂。幾ら俺が独り言が多いからとはいえ、そんな、考えてること全部、ましてや行動の一つ一つまで口にしたりはしないよ」
目に溜まった涙を拭く。先輩の言ってる事が、いまいちよく理解できない。
「……だって、現にアンタっ」
言葉の続きは、先輩の舌に絡めとられた。ちょ、待って。おれ、そんなの聞いてねぇ…。
「…っは。」
唇を離した先輩が、愉しそうに笑う。
「だからな。これはわざとなんだよ」
「へ?」
「羞恥プレイに入るのかな。どうだ?それなりに恥ずかしかったろ?」
おれの真っ赤になった顔を、にやけた顔で見つめる。
はめられたのか?おれは。バカみてぇじゃねぇか。くそっ…。
「どうした?海堂。続き、しないのか?」
おれの肩を掴み、体を倒してくる。もう、いちいち言葉にはしないらしい。
でも、だからって。だーっ、もう!
「〜〜〜っ。このど変態っ!バカ!」
「やめろっ、海堂。噛み付くなっ。暴力反対だっ……」