「俺様に気安く話しかけんじゃねぇよ」
 伸ばされた手を振り払い、おれを睨みつけながら言った。その眼は、カミソリのようだって思った。
 でも、その光はすごく淋しそうに見えて。放って置けないっても、思ったんだ。



「なぁ、亜久津。いい加減、学校にちゃんと行きなよ。優紀ちゃん、心配してるよ?」
「行き成り部屋に押しかけてきて言うことったら、それかよ。いい加減聞き飽きたってぇの。なんか他に面白い話しねぇのかよ」
 ベッドの上、半分寝そべるような感じで壁に寄りかかると、亜久津は煙草に火を点けた。おれに向かって煙を吐く。
「ケホッ、ケホッ。あく、つ。そんな所で吸って、火事になったらどうするんだよ」
 煙を手で払い、整頓された本棚の隅に置かれていた灰皿を手にとった。亜久津の膝元に置く。
「ったく、いちいちうるせぇな。俺ん家がどうなろうと、俺の勝手だろぉが。優紀みたいなこというんじゃねぇよ」
 悪態を吐きながらも、灰皿で煙草を揉み消してくれる。それが、少しだけ嬉しいとか思ってしまう。
「で。何なんだよ」
「うん?」
「おめぇがここに来た理由だよ。ガッコ行けとか、そんなこと言いに来ただけじゃねぇんだろ?」
 何処から取り出したのか、板ガムを口に放りながら亜久津が言った。おれにも一枚投げてよこしたので、遠慮なく、口に入れる。
「うん。それだけだよ」
「は?」
 亜久津の口が、あんぐりと開く。あれ?おれ、なんか変なこと言ったかな。
「バッカじゃねぇのか。たかがそんなことの為にくんじゃねぇよ」
 渇いた笑い。なんか、無理して悪態を吐いてるみたいだ。笑いが一通り終わったのか、亜久津はガムを吐き出すと、それをゴミ箱へと放った。
「何だ?優紀にでも頼まれたのか?」
 わざとらしく口元に笑みを浮かべて、おれの顔を覗き込んでくる。
「うん。そうだけど」
 頷くと、亜久津は少しだけ淋しそうな眼をして、おれから顔を遠ざけた。
 そんな顔をされると、なんだかんだ言って亜久津も淋しかったんじゃないの?とか思ってしまう。だから、慌てて言葉を付け加える。
「でも、おれ自身も亜久津に会いたいって思ったから」
「……なっ…」
 おれの言葉に、亜久津は少しだけ顔を赤くする。それを見たら、言ってるおれもなんか恥ずかしくなって、顔を赤くしてしまった。
 気まずい空気。何か言わなくちゃって思うけど、何を言ったらいいのか、理解らない。
 それを打ち破ったのは、亜久津の溜息。
「ったく、おめぇはよぉ。何でそんなに俺のこと構うんだ?そんなことしたって、何の得にもならねぇだろぉが」
 壁に寄り掛かり、煙草を探る。火を点けようとして、おれの視線に気づいた亜久津は、舌打ちをするとそれを灰皿へと投げた。
「放っておけないんだよ、亜久津のこと」
 あの淋しそうな眼の色が、忘れられなくて。
「なん、でだよ」
「好きだから、かな」
 あれ以来、ずっと気になってるんだ。亜久津のことが。
 それに、かっこいいしね、憬れるよ。人間的に、凄く好きだ。
「バッカじゃねぇの」
 吐き捨てるような亜久津の声。でも、語尾が震えてるのが、おれには理解った。感情を無理矢理押し込めようとするときの、亜久津の声色だ。嬉しいのかな?
「あとね。ちゃんと得したこともあるんだよ」
「……あんだよ。得したことって」
「言わないよ。亜久津、どうせバカって言うだろうから」
 そのカミソリのような眼が、おれを見るときだけ優しくなるんだ。特別な感じがして、凄く嬉しい。なんて言ったら、バカにされるだけだし。
「あんだよ。言いかけたんだったら、ちゃんと言えよ。気になるだろぉがよ」
 眉間に皺を寄せて、おれを睨むように顔を近づけてくる。それでも、その眼の奥は凄く優しい。
「知りたかったら、さ。条件。明日から、ちゃんと学校行って?ね、約束」
 亜久津の視線を遮るように、小指を立てて微笑った。
 暫く、おれとその小指を交互に眺めていた亜久津が、諦めにも似た溜息を吐く。
「わぁったよ。行きゃーいいんだろ、ガッコによ」
「うん。約束だよ」
 触れた小指をしっかりと絡めると、おれはもう一度微笑った。



「で。何なんだよ、得したことって」
「……怒らない?」
「怒らねぇよ。いいから、言え」
「うん。じゃ、亜久津。耳貸して」
「お、おう」
「だから、それは―――――。ね」
「………はっ、バッカじゃねぇの」
「……大竹しのぶ。」
「あん?」
「ううん。何でもないよ」





「バッカじゃないの!」(大竹しのぶを真似している明石家さんま口調で)
……ごめん。遊びすぎた(笑)
天然って悪意も他意も何も無いから、最強だよねぇ。
振り回される亜久津。




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