「姉さん、どうしよう」
「何が?」
「僕、裕太のこと、本気で好きみたいなんだけど」
「……また、それ?」
僕の何度目かの告白を、もううんざり、という溜息と共に、受け止めた。
いつ入っても不思議な雰囲気を保つこの部屋は、物が少ない。僕の部屋と彼女の部屋を取り替えると、もしかしたら皆のイメージにピッタリ当てはまるのかもしれないな、なんて。
「全く。こんな夜中にヒトを起こして。言うことはそれしかないの?ほら、ヒトの部屋、ジロジロ見ない」
「だから、こうして紅茶を淹れてきてあげたでしょう?はい。どーぞ」
「周助。あんた、あたしを寝かす気ないでしょう?」
「……あ。バレた?」
「バレたもなにも。夜にこんなカフェインたっぷりの飲み物飲んだから、眠れなくなるのは当たり前でしょう」
ブツブツといいながらも、美味しそうに紅茶をすする。だったら飲まなければいいのに、とは思うけど。僕としては飲んでくれた方がありがたいので何も言わない。
「で。今度はあたしに何をさせようって考えてるの?」
カップを膝に置くと、呆れたように訊いてきた。察しがいいね。流石、僕の姉。いや、褒めるべきはその能力?
「明日…って言うか、今日か。裕太の誕生日でしょ?だから、ちょっとさ、拉致って来て欲しいんだ」
ニコっと微笑って言う僕に、姉さんは大きな溜息を吐いた。
「どうせそんなことだろうと思ったわよ」
何でもお見通しってワケですか。流石、エスパー。ん?チャネラー?まぁ、どっちでもいいや。
「そういえばさ。姉さんって驚かないよね」
「何が?」
「僕が裕太を好きだって言ってもさ」
「まぁね」
何が可笑しいのか、姉さんは紅茶を飲むとクスクスと微笑った。
「姉弟だもの。周助に対する裕太の気持ちくらい、とっくに気づいてたわよ。ま、まさか本気だとは思わなかったけれど」
「………でも、ショックじゃない?」
「別に。人を好きになるのは個人の自由だから、周助が誰を好きになろうと、あたしは何も言わないわ。でもね」
一息吐き、僕の眼を真っ直ぐに見つめる。
「不幸にしちゃ駄目よ」
「………解ってるよ。裕太は僕が幸せにするから」
クスリと微笑う僕に、彼女はこれまでに無いくらいの大きな溜息を吐いた。まあ、今の裕太を不幸にしてる僕が言う科白じゃないよね。なんて、苦笑い。
「裕太だけじゃないわ、周助自身もよ」
「………え?」
優しい声で言うと、彼女は僕の頭を優しく撫でた。
「周助、初めて本気になったでしょ?」
「………まぁね」
「その気持ち、大切にしなさいよ。あんまり焦って、自分から壊すような真似だけはしないで」
「………うん」
「約束」
僕の頭に置いてある手を目の前まで持ってくると、彼女は小指を立てた。
「うん。約束する」
その指に、僕の小指を絡ませる。彼女は、安心したように微笑った。