唇を重ねると、まるでそれが合図であるかのように彼の躰から力が抜ける。僕は彼をベッドに押し倒すと、指を絡ませた。彼を見下ろす。
「不二…」
熱くなり始めた吐息。期待と不安に満ちた眼がそこにある。
「もしかして、もう息上がっちゃった?」
ニヤリ、と最低の笑みを投げかける。彼は顔を赤くすると、素直に頷いた。
いつもコートの上での主導権は、彼にある。でも、ここは僕の領域で。無論、主導権は僕にある。
右手を解き、額にかかる髪を掻き揚げる。
「可愛いね、手塚」
呟いて、額に唇を落とす。彼の左手が僕の頭を掴んだ。唇を滑らせ、口付けを交わす。
「……んっ…」
苦しそうな声が、彼の口から漏れる。それすらも、僕の横をすり抜けるのが許せなくて。もっと、深く。その唇を貪る。
「………はっ、ぁ…」
唇を離すと、彼の息はもう完全に上がっていた。潤んだ眼で僕を見つめるから。
「糸…引いちゃったね」
なんて。意地悪なことを言いたくなる。
「ば、か…」
彼は赤い顔をいっそう赤くすると、僕から背けた。目の前に現れたのは、彼の耳。クスクスと吐息混じりの笑い声を聴かせ、その耳朶を口に含む。
「……っあ」
彼の口から、甘い吐息。いつからか、彼は声を我慢することをしなくなっていた。初めはあんなに恥ずかしがっていたのに。でも、それは僕と彼の距離が今までになく近くなった証拠であり、彼の本来の姿。
ああ、なんて君は、こんなにも愛おしいのだろう。
「不二っ、もっと…」
刺激を与えることを止めその姿に魅入っていた僕に、彼は赤い顔で呟いた。僕の首に腕を回し、唇を重ねてくる。
「好きだ」
呟いては、切に僕を求める。
「好きだよ」
呟いて、僕も彼に答える。
部屋を充たしていく、卑猥な音と甘い熱。
僕の下で淫らにその快楽を求めてくる彼を見て、今更、気付く。
ああ、そうか。コートの上でもベッドの上でも。初めから僕に主導権なんてなかったんだ…。