冷たい月明かりが彼を照らす。
「ねぇ、どうして君は僕を見てくれないんだい?」
 呟くと、意識の無い冷たい躰を背後から強く抱きしめた。その手を、ゆっくりと下へ移動させる。腹部に固く冷たい感触。そして、生温かいものが手に纏わりつく。
 腕を解き、体を起こす。月明かりに両手を翳すと現れる、赤黒い液体。腕を伝い落ちるそれを遡るように、舌で舐め取る。その感覚に、自分が吸血鬼になったような錯覚に陥り。思わず、口元に笑みが浮かんだ。
「こんなに、好きなのにね」
 彼を仰向けにしその上に跨ると、視線を合わせるために彼の顔を覗き込んだ。けれど、見開いたままの彼の眼は、もう何も映さない。なんだか酷く哀しい気持ちになって、僕は彼の眼をそっと閉じた。
「君が、いけないんだよ?」
 腹部にある鉄の塊を引き抜くと、再び流れ出す緋色。そこに舌を這わせ、自分の中へ取り込んでいく。
「ふっ……あはは。あはははは」
 突然にこみ上げてくる感情を抑え切れず、僕は声を上げて笑い出した。莫迦なことを!こんなことをしたって、彼を殺したって何にもならないじゃないか!
「結局、最後まで君のココロは僕のものになってくれなかったね」
 幾度カラダを重ねても、奥底では僕を拒み続けてきた。快楽に飲み込まれることは在っても、その眼には決して僕を映してくれなかった。
 自分の満足の為だけに彼を傷つけて。こんなことがしたかったわけじゃないんだと後悔して。その繰り返し。その輪廻を断ち切った結果が、これだ。
「ねぇ。どうして僕じゃ駄目だったの?」
 答えなど返ってくるはずが無いのに。呟いては口付けを交わす。その度に、彼の唇が血に染まって行く。
「好き、だよ」
 この言葉だけじゃ、足りなかったのだろうか?
「……愛してる」
 そう囁いてあげるべきだったのだろうか?
 それでも、きっと。彼は僕のものにはならなかったのだろう。そして、これからもずっと…。





不二の相手はお好みで。(不二塚をイメージして書いたけど)
本当はアンドロイドの話になるはずだったんだけど、長くなりそうなので却下。
久々にピンポイントな話が書けて満足です。
…読んでいるほうは物足りないかもしれませんけど(苦笑)



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