……可笑しい。もうそろそろ悲痛な叫びが聞こえてきてもいいはずにゃのに。
 美味しそうにシュークリームを食べている不二を見て、俺は首をかしげた。
 不二が今食べてるシュークリームは、俺特性のもので。中にはクリームの代わりにたっぷりのからしが入ってる。こないだわさび巻きを食わされた仕返し!って意気込んで作ってきたんだけど。
「ふ〜じぃ〜っ。それ、美味しい?」
「うん。美味しいよ。英二ってやっぱり料理上手いよね」
「えへへ、そう?」
「うん。お嫁さんにしたいくらいだよ」
「あんがと」
 って。違うよ。なに喜んでんだよ、俺。んでもって、何で不二は平気そうに食べてんだよ。不二の舌はやっぱり可笑しいのか?でも、流石にからしを普通に食べるのは可笑しいだろ。それとも、大石用の普通のシュークリームと間違えて渡しちゃった?
「………それはマズイっ」
 大石の元へ急ごうと、俺は慌てて立ち上がった。その前に立ち塞がるのは、笑顔の不二。
「どこ行くの?」
「ち、ちょっと、大石の所に」
 言いながら、不二の頭を押し退けた。その手を、取られる。
「その必要は無いよ。ほら」
 クスリと笑いながら、不二がドアの方を見る。俺もそれと一緒にドアの方を見た。
「大石。……と、手塚」
「英二、早くしないと部活始まるぞ」
 どうやら大石は、あまり俺が遅いんで迎えに来たようだった。…でも、何で手塚と一緒なんだ?
「不二、お前もだ。遅刻するなら、後でグランド20周だぞ」
「ん。今行くよ」
 ああ。不二を呼びに来たのか。でも、だからって、わざわざ二人一緒に来ること無いのに。
「ねぇ、英二」
「にゃ?」
「大石に、次から一人で君を迎えに来るように言っといてくれないかな。餓鬼じゃないんだから、手塚の後ろ、いつまでもちょろちょろしてんなって」
 いつもより少しだけ、低い声。不二、怒ってる。結局、考えてることは俺ら一緒なんだ。でもさ、
「……それって、手塚にも」
「ん?」
「んーん。何でもにゃい。言っとくよ」
 手塚にも言えることなんじゃない?と言おうとして、止めた。俺だって、自分の命は惜しいもんね。
 って。違うよ。今は大石の安全だっ!
「大石っ!」
 俺は不二の手を振り解くと、急いで大石の元へと向かった。俺の慌てぶりに大石が早くもオロオロしだしてる。
「英二、どうかしたのか?」
「えーっと、その…。俺のあげたシュークリーム、食べてない?食べちゃった?大丈夫?辛くなかった?」
「え?あー…っと。食べた、けど。うん。美味しかったよ」
 拍子抜け、というような感じで、大石は答えた。その答えを聞いて、俺の体から力が抜ける。でも、じゃあ、何で不二は平気にゃの?
「でも、どうしたんだ?何でそんなこと…」
 拍子抜けした俺を、不思議そうに大石が見つめる。俺は手招きすると、大石の耳に手を当てた。
「あのね、実は…」
 言おうとした瞬間、俺と大石の間に手が入ってきて。
「なーに内緒話してるのかな?」
 その声と共に、俺たちは引き離されてしまった。顔にベッタリと張り付いている手を剥がすと、そこには、不気味なほど優しい笑みを浮かべている不二。
「ん?何?」
 その顔をまじまじと見つめる俺に、不二は笑顔を見せた。大石が無事だったってことは、不二が食ったシュークリームはからし入りってことだよにゃ?
「……不二。本当に、平気にゃの?」
「何が?」
「シュークリーム」
「何で?美味しかったよ。全部食べちゃった」
 ほら、と不二は両手をひらひらさせて見せた。確かに。不二の机にも食べかけのシュークリームは残ってなくて。本当に全部食べたみたい。でも。不二は手品師というか詐欺師というか嘘吐きというか。とにかく、不二の言うことは簡単に信じちゃいけない。
「うっそだぁ。そんなこと言って、不二、食べかけのやつどっかに隠してるだろ」
「何でそう思うの?」
「だってアレにはからしが……あっ」
 …ヤバっ。
「からし?入ってたの?」
 慌てて口を噤んだけど、もう遅くて。不二は笑顔を崩さないまま、俺に迫ってきた。こうなったら誤魔化そうと思ってももう無理。観念するしかない。ってか、俺がここで正直に告白したら、不二は自分がからし入りのシュークリームを食べたこと、白状してくれんのかにゃ?
「……だってぇ。不二、いっつも俺に意地悪ばっかりするから…」
「ふーん。でも、僕のはからし入ってなかったよ」
「………嘘だ」
 まだ、シラを切るつもりにゃの?
「何なら、確認してみる?」
 訝しげに見つめる俺に、不二は妖しい笑みを浮かべながら言った。でも。
「確認って。不二全部食べちゃってるじゃん。どうやっ…」
 ……………辛っ。
「「不二っ!」」
「あはははは。」
「『あはは』じゃないだろ?」
「それよりも、大石いいの?英二が今にも死にそうだよ?」
「え?」
「不二の、嘘吐きぃ…」
「え、英二っ!!………!」
 ……もう、ヤダよぉ。




「ねぇ、手塚。」
「何だ?」
「怒った?」
「何がだ?」
「英二とキスしたこと」
「……別に」
「嘘。怒ってる」
「怒ってなどいない」
「だって、眉間の皺、いつもより深いよ?」
「………ならば、怒っているのだろう」
「じゃ、キスしよっか」
「な、何でそうなる?」
「したくないの?」
「……好きにしろ」
「但し、今なら『からし味』だけどね」
「…………断る」





英二、倒れる。大石、看病する(笑)
何度も書き直してこの程度かよ、自分(涙)
……だって、漫画にしたかった(←画力が無いので自力では無理)
案外手塚はやきもちやき。



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