「君は…」
 オレの体を強く抱きしめると、不二が口を開いた。
「君は、不思議なヒトだね」
 首筋に顔を埋め、クスクスと微笑う。その感触がくすぐったくて、オレは身じろいだ。いつもならそれでも離さないのに、今回はあっさりと手を離した。そのことに。何故か淋しさを感じた。我侭だと、苦笑する。
「何処が……?」
「ん。」
 一言だけで頷くと、不二はオレから体まで離してしまった。ハッキリとした淋しさに不二を振り返る。
「不二…?」
「ん?」
 けれど、それはオレの思い違いで。不二はオレの肩を掴むと、体の向きを無理矢理換えさせた。身を寄せ、向かい合う。暫く見詰め合った後、どちらともなくキスを交わした。
「僕はね」
 長い口付けの後、額を合わせると、不二は思い出したように呟いた。
「憬れたモノにはなりたいって思っちゃうんだ」
「……何だ、それは」
「んー。だからね」
 言いかけて、額を離す。不二は仰向けになると、何の変哲も無い天井をじっと見つめた。いや、そのもっと先を見つめていたのかもしれない。
「カメラ、ね。僕の趣味。知ってるでしょう?」
「ああ。あそこに飾ってある」
 頷いて、壁に掛かっている写真を指差す。月明かりだけが頼りなので、ハッキリとその画を見ることが出来ないが。あそこにあるのは、不二が撮った写真で。オレが褒めたら次の日に引き伸ばして持ってきてくれたものだ。
「うん。でもね、僕、写真を撮ろうって思ってたワケじゃなかったんだ」
「?」
「最初はね、写真を見るのが好きだったんだ。そのうち、好きな写真家が出来てね。憬れて。気がついたら、自分でもカメラ持ってた。テニスも同じ。小さい頃、憬れてた選手がいてね。プレースタイルを真似たりとかもしてたんだ。今はそんなことしてないけど」
「………………そうか」
「ん?何?」
 あまりにも遅くそっけない返事を不審に思ったのか、不二は体の向きを変えオレの顔を覗き込んできた。
「別に」
 呟いて、今度はオレが視線を外す。すぐ耳元で、クスリと不二が笑う。
「何?妬いてるの?」
「……五月蝿い」
「あはは。可愛いの」
 クスクスと笑い強く抱きしめると、不二はオレの頬に何度もキスをした。
「そ、それと」
 不二の腕を解き、もう一度向かい合う。顔が赤くなっている気がして、一度だけ咳払いをした。
「それと、オレが不思議なのと。どう関係があるんだ?」
「だから、さ。憬れてるものにはなりたいって、思ってたんだよ」
「だから、それの何処が…」
「こら。話は最後まで聴くものだよ」
 触れるだけの口付け。唇を離すと、不二は微笑った。その笑顔に、何なんだ、心の中で毒づく。オレの話は途中で止めるくせに。それに、そもそも不二が回りくどい話し方ばかりするから…。
「ほら、眉間に皺。」
 愉しそうに手を伸ばすと、オレの眉間の皺を伸ばした。こんな調子だから、怒る気すら失せてしまう。それに、オレが反論したところで、こいつは全てを愉しんでしまうだろう。
「でも、君だけは違ったんだ」
「?」
 突然、話を戻されて。オレは何のことだかすぐには解からなかった。眉間にあった不二の手が滑り、頬に触れる。
「君のようになりたいとは思わないんだよ。出逢ってからずっと、君に憬れてるのに。これって、不思議」
「……憧れとかそれ以前に、ただ単に、オレになるのが嫌なだけなんじゃないのか?」
「そんなマイナスにとらないでよ。言ったでしょ。君に憬れてるって」
「だが、例外なのだろう?」
「うん。でも、理由はあるみたい。何でそう思うようになったのかは解からないけど」
「……何だ?」
 訊き返すオレに、不二はクスリと微笑うとキスをした。そのまま、オレを強く抱きしめ、耳元に唇を寄せる。
「僕は、君の傍に居たいってこと。なりたいんじゃなくて、傍に居たいんだ。不思議だよね。ずっと、君に憬れていたいのに。そう、思わない?」
「………。」
「手塚?」
「オレには、お前の方が不思議な奴に思えるぞ」
「そう?」
 不二の言葉や行動のひとつひとつに、オレの心は酷く左右される。それまで、テニス以外に関心など持たなかったのに。こんなにも、今、心、動かされている。
「不思議な奴だよ。お前は」
 もしかしたら、オレもお前に憬れているのかもしれないな。なりたい、とは思わないが。一緒に居たいとは思うのだから。
「…手塚?」
 少しだけ、体を離す。不思議そうに見つめる不二に笑顔を作ると、オレは自分からキスをした。





「クン」なのか「キミ」なのかι
アコガレは憧れよりも憬れの漢字のが好き。
久々に不二クンがキス魔になってみました(笑)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送