「観月さん、こんなもんどーするんですか?」
「ふふふ。あなたは気にしなくていいんですよ。ただ、あなたのこの先の練習のために、書類が必要でしてね。さ、終わったら返しますから。あなたはもう部屋に戻っていいですよ」
「あ、でも…」
「いいから」
「あの、あに……」
 いつまでも五月蝿い彼を追い出し、部屋に鍵をかける。ソファに座り、溜息を吐く。
 バカは使いっ走りとしてはいいけれど、そのあとの始末が大変だ。無駄に勘ぐってきますからね。黙ってボクの言うことだけを聞いていればいいのに。最近は妙に反抗的だ。
「全く、誰の影響なんでしょうね」
 大体の想像はつきますけどね。恐らくは、彼の…。
「そうそう。忘れるところでした」
 弟クンに持ってこさせたこれを使って、早く書類を完成させなければなりません。勘のいいあのヒトのことです。ボクがこれを提出する前に気づかれてしまうかもしれませんから。それでは、彼を驚かせることが出来ませんし。
「えーっと…」
 机の引き出しにしまっておいた紙を取り出す。彼の筆跡に似せて書いたその名前。指でなぞるだけで、顔がにやけてきます。
「不二はじめ、か」
 いい響きです。その響きだけで、彼との結婚生活が上手くいきそうな気がしてきます。
 ボクは彼になんて呼ばれるんでしょう?今まで見たいに苗字で呼ぶことは出来なくなるわけですから、『はじめ』とか呼ばれちゃうんでしょうか?それで、他のヒトにボクのことを話すときは『うちの嫁が』みたいな。
「んふふ」
 良いです。良すぎです。それで、ボクは彼のことを『あなた』とか『周助』とか呼んじゃって、他のヒトには『うちの旦那が』とか『うちのヒトが』とか言っちゃうんです。
「うちのヒト…」
 なんか、彼を独占した気分です。
 ああ、なんて素敵な新婚生活。そのためには狭いながらもアパートを借りなくてはなりませんね。こんな寮にいたのでは、彼と一緒に暮らせませんから。
「おっと。それよりも、まずは…」
 この婚姻届を提出しなければなりません。あとは彼の印鑑を押すだけ。全部僕が作ってしまったら偽造のような気もしますが、全国大会へ向けての練習で忙しい彼の代わりに書いているのだから、犯罪ではないでしょう。それに、こうでもしてあげないと、シャイな彼のことですから、なかなかボクとの結婚に踏み切ってくれませんから。
「まずは、手際よくやって、いい奥さんを印象付けなければなりませんしね」
 朱肉をつけ、指定された箇所に手際よく判を押す。
「……これでよし、っと。うふっ。カンペキ」
 これでこの書類を提出すれば、はれてボクは彼の奥さんに…。
「なれるわけないだろ」
「っ!?」
 ばたんと言う大きな音と共に、ドスの効いた声が部屋に飛び込んできた。慌てて書類を隠し、視線を向ける。
「不二クン」
「やぁ、観月」
 どうやって鍵を開けたのかは判りませんが、彼は余裕たっぷりの冷徹な笑みを向けると、ボクの部屋に入ってきた。と言うか、何で彼がここに…?
「裕太が不審がってたもんだからね。ついて来たんだよ。君の莫迦みたいな独り言、聞かせてもらったよ」
 開け放たれたままになっている扉の向こうに、ちらりと見えた人影。不二裕太…この、役立たずが。これならバカ澤に印鑑を盗ませた方がまだ良かった。
「とりあえず、これは返してもらうよ」
 言うと、彼はテーブルの上に置きっぱなしになっていた印鑑を手に取った。
「えっ、ちょっと、まだ…」
 と、取り合えずボクは残念そうな顔をしてせた。彼が、口元だけで微笑う。
 なんてね。もう書類は完成してるから、そんなもの必要ないんですよ。
「じゃあ、僕はこれで帰るから。今回は君のその誰も真似できないような莫迦さに免じて赦してあげるよ」
 ボクを見下ろし、射るような視線を向けると、彼はボクに背を向け扉の方へ向かった。ドアを手にしたところで立ち止まり、振り返る。
「そうそう。知ってる?結婚って男の場合は18歳以上じゃないと出来ないんだよ。それと、婚姻届だけじゃ結婚は無理」
「え?」
「というか、この国じゃ、法律上男同士の結婚は無理。そのまま役所に持ってっても恥かくだけだからやめときなよ。じゃ、僕は裕太のところに行くから、顔見せないように部屋の中にでもこもっててね」
 混乱し始めたボクの頭の中に次々と言葉を押し込めると、彼は勢いよくドアを閉めて部屋を出ていってしまった。
「な、なんだったんですか?」
 頭の中を、整理する。
 ……もしかして、今までのボクの行動は全て無駄だったってことですか?
「………そんなぁ」
 でも、待ってください。彼はこの国ではといいました。ということは、日本以外なら男同士での結婚が出来るってことでしょうか?
 …………うーん。そうです、ね。
「決めました。ボクは諦めませんよ。不二はじめになるためなら、例え火の中水の中です!」





阿呆な話でゴメンナサイ。
つぅか『印鑑』なんてタイトル…これしか思い浮かばんかったしι
困るとアレだよね、不二観を書いてしまいますよね。
たまにはマジメな不二観を書いてみようとも思うんですけど…。
ま、きっと無理やねι




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