「っあ。周助っ、そこ…」
「…こうっ?」
「ぁ…、い、いい…」
 玄関を開けた途端、耳に入ってきた声。聞き覚えのある声。とても嬉しいものと、邪魔臭いもの。
「…あぁっ…」
 ってゆうか、なんなんだよ。この声は。
「…………まさかっ」
 嫌な予感がした俺は、乱暴に靴を脱ぎ捨てると、急いで声のする部屋へと向かった。




「こんにちは〜」
 呟いて、玄関を開ける。誰もいないかと思うくらい、深としてる。でも、玄関が開いてるわけで。ヒトがいるのは確か。ちゃんと確認もとってあるし。
「こんにちは…」
 もう一度呼びかけてみても、返事はしない。あーあ。声だけじゃ判ってくれないって?
「不二ですけど。誰か、居ませんか?」
 これで駄目なら帰ろうかとも思ったけど。そんなことは無用だったらしい。ドドドという物凄い足音と共に、そのデカイ男は僕の目の前に現れた。
「はぁ〜い、マイスゥイ〜トハニ〜っ」
「わぁっ」
 避ける間もなく。僕は彼に抱きしめられると、熱い口付けを喰らってしまった。
 久しぶりに会った所為か、その口付けは深く、長いものだった。
「ったく、久しぶりじゃねぇか」
 唇を離した彼が、少し荒い息で問いかける。僕は苦笑すると、彼から体を離した。
「しょうがないよ。テスト期間中だったんだから」
 乱れた服を直し、彼に触れるだけのキスをしてあげる。それだけで、彼の顔は気持ち悪いくらいにニヤケる。まあ、そこが可愛いんだけど。
 なんて。ちょっとでも油断すると、僕を壁に押し付けて更に唇を重ねようとしてくるから。
「それにしても…。ねぇ、南ちゃん」
 僕は彼の唇に人差し指を当て、それを制した。
「あん?」
 少しだけ不満そうに、彼が眉間に皺を寄せる。
「さっきの、なんだったの?」
「なんのことだよ」
「『ハニー』って」
「……ああ。あれ、な。アメリカンスタイルだよ。かっちょいいだろ。あ、もしかして惚れ直しちゃったか?」
 嬉しそうに言うから。
「ううん。気持ち悪かった」
 僕は笑顔を見せると、首を横に振った。途端、彼の顔に影が落ち、しゅんとなった。そんな彼が、可愛いと思う。カッコ良いとは、お世辞にもいえないかな。テニスをしてるときの彼ならともかく。
「くそぉっ」
「わぁっ」
 なんて、考えてたのが悪かったのか。南ちゃんは顔を上げて睨みつけると、僕を抱き上げた。所謂、お姫様抱っこってやつで。
「ちょっ、南ちゃん?」
「どーせ、うちの馬鹿息子に用事があるんだろ?だったら、優しいオジサマが部屋まで連れてってやるよ」
 どうにか降りようとしたけど、彼が階段に足をかけたので、僕は諦めた。ここで暴れちゃったら、僕の身が危ない。というか、彼は一つ勘違いをしてるんだけど…。
「部屋のドア開けたら、馬鹿息子の前でチュウしてやっからよ。あいつ怒るぜー……って」
 階段も残すところあと数段となったところで、突然、彼の足が止まった。どうやら、勘違いに気づいたらしい。
「今日、馬鹿息子のやつ、部活で帰り遅いんだった」
 僕の顔を見て、彼が呟いた。
「そうだよ」
 僕は微笑って彼に答える。
「じゃあ、何でオメーがここにいるんだ?」
「んー。それはね」
 不思議そうに僕を見つめる彼の頬を両手で包み、その眼を見つめる。
「南ちゃんに会いたかったからだよ」
 クスリと微笑うと、僕は彼にそっと口付けた。途端、彼の体がグラつく。
「南ちゃん、危なっ」
「だぁっ……」
 バランスを崩した彼は、ドドドと物凄い音を立て、僕を抱えたまま階段から滑り落ちた。




「……ってわけ。間抜けだよね」
 話しながら思い出したのか、先輩は声を上げて笑った。
「ホント、間抜けだよね。このエロオヤジ」
 俺は親父のマッサージをしている先輩を座らせ、その膝に乗った。剥がれかけてる湿布を思いっきり叩く。
「いってぇ。何すんだ、このくそ餓鬼」
「うっせ。自業自得じゃん」
 俺はこれ見よがしにと、先輩の腕を自分の体に回した。出来るだけ、先輩にぴったりくっつく。布団で、湿布だらけの背中を出して横になっている親父を得意気に見下ろす。
「あーあ。母さんがこれ見たら、どう言い訳しようか。ねぇ、エロオヤジ?」
「う゛……。りょ、リョーマくん、お父さんが悪かった。だからカルに飛びつかれて階段から滑ったってことにして…」
「さーて。どーしよっかなー…」
 ニヤニヤといやらしい笑いを口元に浮かべながら、親父を見下ろす。と、突然、俺の肩にずしりとした重み。
「許してあげてよ。今回のは、一応、僕にも原因があるんだし」
 肩の上で、わざとらしく口をパクパクさせて話す。くすぐったいから、肩をよじろうとも思ったけど、親父の前でそんなことをするのも癪だから、そのまま何とか我慢した。つもりだったけど。
「どーした、馬鹿息子。顔が赤いぞ?」
 ヒトを馬鹿にした声が飛んできて。
「うっせ」
 俺は親父の背中をもう一回叩くと、先輩の腕を解き、立ち上がった。
「リョーマ?」
「周助。こんなんほっといて、俺の部屋行きましょ」
「えっ、でも…」
「いいからっ」
 渋る先輩の手を強く引く。先輩は苦笑しながらも、何とか立ち上がってくれた。
「じゃあ…南ちゃん、僕、行くから」
「おいおい、怪我人を一人にする気か?」
「しょーがないでしょ。自業自得なんだから。今回は口裏合わせてやっから、それくらい我慢しな」
 先輩に向かって伸ばされた親父の手を掃うと、俺は先輩の背を押すようにして部屋を出た。先輩を先に部屋に向かわせたあとで、もう一度、親父の部屋を覗く。
「……なんだよ、馬鹿息子」
「今日、俺たちも久しぶりだから。声、聞こえないようにするつもりだけど、もしものときは……まあ、無視してよ」
「あ゛あ゛?」
「んじゃ。そーゆーことだから」
 階段から、ハニー、と微笑いながら俺を呼ぶ声がして。俺は、今行く、とドアに向かって叫ぶと、もう一度親父を見た。
「ったく、ムカつく餓鬼だな。誰に似たんだか」
「アンタじゃない?だから、周助もアンタのこと気に入ってるんでしょ。アンタが俺に似てるから」
「なっ…」
 勝ち誇った笑みを向けると、俺はドアを閉め、周助の待つ部屋へと向かった。




「………で。何?『ハニー』って」
「んー。アメリカンスタイルだってさ。南ちゃんが言ってた。どう?カッコ良い?何なら僕のこと『ダーリン』って呼んでもいいよ。なーんて」
「冗談は止めてくださいよ。そんなダサいこと、出来るわけないじゃないっスか」
「あー。だよねー…」





ふっふっふっ。また、微妙な感じになりましたね。
南次郎はなかなか完全な受けにはなってくれませんねぇ。
つぅか、ちゃんとした不二ナンを読みたいヒトっています?アタシは読みたい(笑)
不二を取り合う受け二人。ああ、なんて素敵な構図v(笑)




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