「君は、いつも走っているね」
 オレの隣、フェンスに寄りかかると、不二が呟いた。始めは誰か他の奴に言ってるのかと思ったが、他に人はいなくて。
「………オレが、か?」
 一歩下がり、不二を見ると。
「うん」
 眼が合ったことを確認するように、不二は微笑った。それとは反対に、オレは眉を寄せる。
「何を言っているんだ?」
 今はコートの空きを待っているから、走ってなどいない。それに、早朝の自主練のときに不二に会ったことは無い。
「僕には、君がいつも全力疾走しているように見えるよ。ねぇ、何をそんなに焦ってるの?」
「焦っている?オレがか?」
「ように、僕には見えるけど。自覚は無いんだね」
 言うと、不二は困ったように微笑った。
 焦っている、か。そう感じたことは一度もない。確かに、オレは手を抜けない性格だから、不二の言う通りいつも全力で物事を行ってはいるが。
「ただひたすらに強さを求めて。その先に何があるっていうの?」
 オレを見つめ、不二は苦しそうに言った。何故、そんな顔をするのか、オレにはわからない。第一、これはオレ自身の問題であって、不二には関係ない。
「さぁな。オレ自身、よく解からん。だが、これはオレの問題だ。お前には…」
「関係ない、なんて言わないで」
 オレの言葉を遮るように、強い口調で不二は言った。そんな不二を見るのは初めてで。オレはなんて言葉を返したらいいのか判らず、ただ見つめ返した。
「何事にも全力で取り組むのはいいことかもしれない。でも、もし躓いたら。スピードが出てる分、その反動も大きいよ。僕はそれが心配なんだ」
「……言っていることが、よく判らないな。躓くことを恐れていたら、走れない。それに、何故お前がそんなことを心配する必要がある?オレを陥れたいのか?そうまでしてオレに勝ちたいのか?だったらオレにそんなこという前にもっと練習でも――」
「そうじゃないよ。そうじゃない。…僕は別に、No.2だとか、天才だとか。そんなことはどうでもいいんだ。ただ、君の傍にいることが出来れば」
「…………。」
「…いや。でも、もしかしたら。君の言う通り、僕は君を陥れたいのかもしれない」
「不二?」
「このまま君が走り続けて、僕との差がどんどん広がっていくのが、怖いだけなのかもしれない。君が、僕の手の届かない…ううん、見えないところまで行ってしまうんじゃないかって。それが怖いだけなのかも」
 オレから眼をそらすと、不二は溜息を吐いた。視線を地面に向けたまま、黙り込む。
 不二が、そんな風に考えていたとは、全く気づかなかった。オレはいつも自分のことを、前だけを向いていたから。
「……………不二。」
「ん?」
「オレはどこにも行かない」
「……え?」
「不二を置いては、どこにも行けない。お前がいなければ、きっと、オレは走ることすら出来ない。お前がすぐ後ろにいるから、オレは走ることが出来るのだと思う」
「手塚…」
「だから、お前も遅れないように着いてこい。時々は振り返って、待っててやるから」
「……うん」





『陥れる』って言葉を使うと、『トランス・トラップ』という歌を思い出すわ。いや、どーでもいいんだけれども。
どうにもこうにも、恥ずかしいラストですな、手塚くん。つぅか書いているのが自分だと思うと恥ずかしいι



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送