「飛影、危ないっ!」
蔵馬の声が、聞こえた。かと思ったら、俺の視界は真っ赤に染まった。目の前で、蔵馬が、細切れになっていた。
「くら、ま?」
元は蔵馬であったろうものどもが、俺に降り注ぐ。
そいつは蔵馬の躰こそバラバラにしたものの、首から上は切り付けなかった。そうして原型を留めている頭が、俺の腕の中に丁度良く落ちた。
「無事で、よかっ、た」
どういう仕組みで動いたのかは知らないが。蔵馬は今にも消え入りそうな声でそう呟くと、目を開けたまま息絶えた。
「ぁ」
何か言おうとしたが、ただの声しか漏れて来ない。だが、声を出したことで、蔵馬が死んだと言う事実が、俺の中にようやく染み渡ってきた。
恐怖が、俺を襲う。
それは自分より強い敵にとか蔵馬が死んだからとか自分が次に殺されるとか。そう言ったものに対してではなく。独り取り残されたことに対する、恐怖だった。そして、いつの間にか温もりを求めるようになっていた自分に対する恐怖だった。
独りが、怖い。温もりが無いのが、怖い。
だが、温もりは誰でも良いというわけではなかった。蔵馬でなければ、ならない。なのに、その蔵馬は、死んだ。たった今、俺の腕の中で。まだ温もりは感じるものの、次第に俺よりも冷たくなっていってしまうのだろう。
「くら、まっ……蔵馬っ」
やっと、哀しみが俺を襲った。取り残されてしまった恐怖と共に。
だが不思議と涙は出てこなかった。変わりに、口から、妙な笑いが零れてくる。
「……気でも触れたか?」
目の前で、蔵馬の血のついたモノを振りかざしたそいつが、不思議そうに俺を眺めている。けれど、そんなことは気にならなかった。
ただ、少しだけ気になったのは、恐怖も哀しみも、行く所まで行ってしまえば、笑いしか出て来ないということだった。何かが、可笑しくて仕方が無かった。
けれど。それも直ぐにどうでも良くなった。
何故なら、そいつの持っていたモノが、俺に向かって振り下ろされたからだ。
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