8.唇を寄せて(蔵飛)

 眠っていると、耳元に何やら吐息を感じたような気がした。
 後日訊いてみると、どうも眠っている時に悪夢でも見ているのか俺が眉間に皺を寄せていることがあるらしく、そんな時、俺に良く眠れるよう魔法の言葉をかけているのだとか。
 どんな内容か気になりますか。俺が興味を持ったことが嬉しいのか、微笑いながら蔵馬は言ったが。別に。と俺は答え、その日は眠りについた。
 気になったのは事実だった。だが、その日のうちに狸寝などしたら、勘の良い蔵馬の事だ。直ぐにバレてしまうだろうから。もどかしさを抱えつつも、俺は時が経つのを待った。
 そして、1ヶ月。
 そろそろそんな会話をしたこと自体忘れた頃だろうと思い。俺は眠ったフリをする事にした。とは言え、事の後なので、眠らないようにする事は大変だった。しかし、それが良かったのか、俺の眉間には意識をしなくても皺が出来ていたようだった。
 仕方ないな、と溜息混じりの声。そして、それは、直ぐ俺の耳元で聴こえていた。
 そろそろ来るのだろう。そう思った瞬間、蔵馬の声が、頭の中に響いた。
 その言葉に、思わず目を開けそうになったが。俺は眠っている事になっている事を思い出し、毛布の中で、ぐ、と拳を握り締める事で何とか凌いだ。
 暫くして蔵馬の吐息が耳元でしなくなると、今度は上からクスクスという微笑い声が降ってきた。何を微笑っているのか。いつもそうやって微笑っているのか。気になったが、俺は目を開けることが許されないから。そのまま、眠ったフリを続けた。
 けれど。微笑いと混ざってやってきた蔵馬の言葉に、俺は目を開けるハメになった。
「眠ったフリをしても駄目ですよ。眉間の皺、更に深くなってますし。それに、顔、真っ赤ですよ」

(2005/02/23)
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