9.手刀(蔵黄泉)

「がっ…」
 妙な声を出して額を押さえた隙にオレは思い切りその胸を蹴飛ばした。
「で」
「あ。悪い」
 どうやら、思い切りすぎてしまったらしい。黄泉は仰向けにしかも勢い良くソファから落ちたため、床に、角が刺さってしまっていた。
 体を起こし衣服の乱れを整えたオレに、黄泉は助けを求めるように手を伸ばしてきた。その手に触れようとして、やめる。
「……蔵馬っ」
「丁度いい。暫くそのままで反省してろ」
「ふざけるな。もう直ぐ修羅が帰って来るんだぞ」
「だから、だ」
 その隣にしゃがんで微笑うと、赤くなっている額を指で突いた。その手を掴まえられる前に、素早く立ち上がる。
「大体、何でこんな乱暴なことを。今まではこんな拒否の仕方はしなかっただろう?」
「角を引っ張っると首が痛くなるから止めろといったのはお前だろう」
「だからって。チョップはないだろう、チョップは。しかもその上、蹴り上げるなどと…」
 オレを指差し怒るが、なにぶん床に角が刺さった状態。その姿は間抜けだとしか言いようがない。
 オレは吹き出しそうになるのを何とか堪えると、ソファに座った。
「そもそも、お前がオレを襲ってくるのが悪い。もう直ぐ修羅くんが帰ってくるんだろう?」
「そ、それは……」
 逆にオレが指差して言うと、黄泉はそのまま口篭もった。が、その後で口元を歪めて微笑うと、何故か胸を張った。
「それは違うぞ、蔵馬。俺はお前を襲おうとしたわけではない。誘っただけだ」
「………もっと奥まで、その角、埋め込んでやろうか?」

(2005/02/23)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送