11.地獄巡り(蔵鵺)

「よく俺が、地獄(こっち)に居ると分かったな」
「……余りいい生き方をしてなかったからな。オレも、お前も」
「だがお前はいま、それなりの生き方をしてるらしいじゃねぇか。だから、ここにいるんだろ?」
「単なるコネだ。霊界に、知り合いがいる。そのお蔭で、死なずにお前に会えたわけだ」
「それにしても、どうしたんだ、突然。今までこんなことはなかっただろ」
「そんなにしょっちゅうは来れる所じゃ無いだろ、地獄なんて」
「そりゃあそうだが。俺が死んでからどれだけ経ってると思ってんだ?コネがあるなら、さっさと会いに来ればよかったじゃねぇか」
「淋しかったか?」
「……さぁな」
「相変わらず、肯定も否定もしないんだな」
「否定して欲しいのか?」
「……まぁ、答えを貰えないよりは、マシだろう」
「は。相変わらず、素直じゃねぇな。だったら、そんな淋しそうな顔すんじゃねぇよ」
「…………」
「ったく。冗談だって。淋しかった。まさか会えるとは思ってもなかったから、今こうしてお前が訪ねてきたこと、嬉しいと思ってる」
「…………」
「なんだよ。お前の欲しがってた答え、やったんだぜ?少しは嬉しそうな顔しろよ」
「……黒鵺」
「あん?」
「それは、本心か?」
「お前なぁ。人に散々答え求めといて、それはねぇだろ。少しは俺のこと信用しろ」
「信用してる。だから、訊いてる」
「訊いてる時点で信用してねぇってんだよ。ったく。ほれ、そんな顔すんじゃねぇよ。折角の再会だぜ?次はどうせ、お前が死んだ時なんだろ?」
「………多分な」
「だったら、少しくらい微笑えよ。まぁ、お前は昔っから無愛想だったから、そんなずっと微笑っていられても困るけどよ」
「…………」
「おい、蔵馬」
「お前は。オレが殺したようなもんだ」
「は?」
「あの時、オレが戻っていたら…」
「あれは、あれだ。どうせ俺を助け出せても、お前の植物だけじゃどうにもならなかったさ。だから俺は、お前に逃げろって言ったんだ」
「……だが」
「俺はお前を恨んじゃいねぇよ。それくらい、分かるだろ?恨んでんなら、とっくに血の池(そこ)にお前を突き落としてるさ」
「………そう、か。ならいいが」
「何だ、気持ち悪ぃな。そんなで人間界でやっていけてるのか?」
「一応、な。それに、人間界にいるときは妖狐(こ)の姿じゃない」
「ほぉ。じゃあ、一体どの姿なんだ?」
「………この姿には、南野秀一という名前もある」
「大分、縮んだな」
「人間は、妖怪ほど成長はしないらしい。寿命も短いし」
「姿だけじゃなく、声も、変わるんだな」
「まぁ、この姿で妖狐(あ)の声じゃ可笑しいでしょう」
「……口調まで」
「………もういいだろ。戻る」
「おお、伸びた。……いつでも変われるのか?」
「ここには霊体だからイメージ次第でどうにでもなるが。人間界でこの姿に戻るのは負担が大きいからな。極力戻らないようにしている。この姿も、久々だ」
「そうか」
「…………」
「…………」
「…………」
「……そろそろ、時間じゃねぇのか?上、迎えが来てるぜ」
「………コエンマ。そうか、もう時間か。突然呼び出してすまなかったな。じゃあオレはもう行…」
「おいおいおい。ちょっと待て」
「……何だ?」
「お前、ずっと落ち込んでんだろ。これでまた暫くお別れなんだ。最後くらい、微笑えよ」
「………ふっ。我侭」
「お前に言われたかねぇよ」
「そうだな。オレは、我侭だ」
「えらく素直に認めるな」
「偶にはな。お前も素直に淋しかったと言ってくれたことだし」
「……聞いてないようでしっかり聞いてんだな、おい」
「………じゃあ、オレはそろそろ人間界に戻るが」
「おう」
「黒鵺。す…」
「あの時のことは、もう言うな。それ以上言うようなら、本当に突き落とすぞ?」
「…………」
「何だ?突き落とされたいか?」
「ありがとう」
「……何だ。気持ち悪ぃな」
「偶にはな。じゃあ、また、な」
「………おう。また、な」

(2005/3/29)
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