13.泥酔拳(蔵飛) |
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ああ、もう。何でこうなっちまったんだ? 誰が悪い?酔わしたオレか?そうなのか? 「……蔵馬、助けてくれよ」 「幽助っ。貴様っ、蔵馬を呼び捨てにするな!」 蔵馬を見るオレの視線を遮るように飛影の顔が割り込んでくる。完全に酔ってる。目が据わってるし。 それにしても。 飛影がこんなに酒癖が悪いとは思わなかった。 まるで酔拳みてぇだ。直線的な飛影が、酒の所為で曲線的になるなんて。つっても、それは拳じゃなくて言葉だけど。 「幽助っ、聞いてるのか?」 「聞いてるっつーの!」 それにしても、飛影がこんなに饒舌だったなんてなぁ。 しかも、そう。だから。いつもはずばりと核心を突く言い方をしてくるのに、今日は矢鱈と遠まわしでねちっこい。 内容はっつーと、蔵馬とのノロケ。そのついでに、オレと蔵馬の中に対する嫉妬。オレにはそんな趣味はねぇし、第一、オレには螢子がいるって知ってるはずなのに。 独占欲か。まぁ、飛影は、飛影自身が束縛されるのを嫌うから、オレとしてはそんなもんないと思ってたのに。まさか誰かがほんの少しでも蔵馬を見つめることを許さないほどだとは思わなかった。 ったく。一体いつまで続くんだ?このネチネチとした回りくどい攻撃は。 「お前さ、酔ってんだから、もう帰れよ。蔵馬、連れてってくれんだろ?」 「ん?ああ。いいですよ。……ほら、飛影。帰りましょう?」 オレが困る様を黙って、多分内心楽しんで見てた蔵馬だったけど、流石に同情してくれたみたいで。 持っていたビールの缶を一気に飲み干すと、飛影に向かって手を差し伸べた。 「蔵馬ぁ」 蔵馬が出した手は片手だったのに、飛影は両手を広げて蔵馬に向かった。そのまま、手を取らずに抱きつく。それが余りにも勢いが良かったから、蔵馬はそのまま押し倒された。 飛影が蔵馬を組み敷いた形で、じっと見つめている。 「蔵馬。俺以外と話すな。俺だけを見ていろ。この手をもう二度と離すな」 無理難題だ。少し気の毒に思って蔵馬の表情を覗き込んだけど、蔵馬の口元は笑っていて。手を伸ばして飛影に触れると、はい、と頷いた。 すげぇな、こいつ。なんて、改めて思う。 まぁでも、蔵馬の話によると、いつもは自分ばっかりが飛影を好きみたいだって言ってたから。酒の勢いの無理難題とは言え、求めてこられるのは嬉しいんだろう。 って。 「おーいっ、そこ。ここ、オレんちだから。先に進むなら、帰ってからにしてくんね?」 いつの間にかキスとかし始めた二人に、オレは呆れた声で言った。オレの言葉に蔵馬は苦笑したけど、飛影は邪魔されたことが不満なのか、鋭い目でオレを睨みつけた。 「誰が何処で何をしようと勝手だろう?嫌ならお前が出て行け」 「あのなぁ。じゃあお前、オレがこのまま先に進むのを見ててもいいってのかよ?」 「それは……」 「オレは構いませんよ。多分その方が、飛影も燃えると思いますし。……でも、飛影。こういうことは二人だけの世界に浸れる方がいいと思いません?」 「ちっ。仕方ないな」 蔵馬のなだめるような笑顔に、飛影は酒の所為だけじゃなく顔を真っ赤にしながら体から降りた。部屋の隅に脱ぎ捨ててた外套を羽織る。 「じゃあ、幽助。迷惑かけてごめんね」 「蔵馬。謝ることなんてない」 「はいはい。じゃあ、続きはオレの部屋で。さ、行きましょう?」 立ち上がった蔵馬が改めて飛影に手を差し出す。飛影は頷くと、まるで女みたいに蔵馬の腕にしがみついた。 珍しい光景に、思わず、ぼんやりと眺めてしまう。 「……何を見ている?お前、殺されたいか?」 「飛影。今は、オレだけを見てください」 オレを睨みつけてる飛影の頬に触れると、蔵馬は強引に自分の方を向けさせ、唇を重ねた。 目の前でのラブラブっぷりに、思わず目を背けける。 「幽助、今日はありがとう。お陰でこれから楽しめそうだよ」 「貴様。何故幽助なぞに礼をいうんだ?」 「いいから。じゃあ、帰りますね」 「お、おお」 オレに向かってウインクをしてみせると、蔵馬はオレに対して不満のオーラを見せている飛影を連れて部屋を出て行った。 ようやく解放されたとあって、オレは大きく溜息をついた。あけたばかりのビールを一気に飲み干す。 「ったく、いい迷惑だっつーの。まぁ、あんな飛影を見れたのは少し得した気もすっけど」 さっきまでの飛影を思い出し、オレは思わず笑った。 多分あそこまで酔ってたら飛影も明日は覚えてないだろう。覚えてたとしても、きっと自己嫌悪に陥るはずだ。 ちょうどいい。今日のねちねちした話のお礼に、明日、今日あった総てを話してやろう。きっと驚くぞ。 なんてイヤラシイことを考えては、でも実際にそんなことをしたら、今度こそ生命の危機だと思い諦めた。……だって今度は、本気で殺されるかも分からないしな。蔵馬に。 |
(2009/9/10) |
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