16.マシンガントーク(不二塚、大菊)
「――でさぁ」
「マジ?あっははっ。不二、すげぇじゃん!」
 目の前で繰り広げられるマシンガントーク。大分遅れて歩くオレ達は、ただ呆然とそれを眺めるのがいつもの光景になっている。
「……大石」
「んー?」
「気のせいか、あいつらの言葉が速すぎて聞き取れない時があるのだが」
「ああ。おれはとっくに諦めてるよ。どうせ聞いたって、中身なんてないんだから」
 苦笑する大石は、オレから視線を前にいる二人に戻すと、それでも優しく微笑んだ。
 そう、遠巻きに見てれば微笑ましくさえある光景。近づいてそのやかましさを耳にするとうんざりしてしまうけれど。
「にしても、不二もああやって笑うんだなぁ。落ち着いた奴だと思ってたけど、英二と話してると少し声も高くなるし」
「……そうだな」
 あんなふうに馬鹿笑いをする不二を、オレは知らない。不二はいつも落ち着いていて、優しい声と目でオレを見るから。
「手塚?」
「いや。ほんとに楽しそうだなと思ってな」
「だよなー。英二も、おれといる時より楽しそうだし」
「……そうなのか?」
「ああ。英二はおれと2人の時って案外大人しいんだぜ?まぁ普段があれだから、大人しいっていってもフツーな感じだけど。でも、それが英二の楽なスタイルなんだってさ。ああいってはしゃいぐのも楽しいけど、それはそれでパワー使うだろ?けどおれといる時はそういうのなしで楽でいられるんだって言ってた」
「楽で……」
「まぁ、全然淋しくないわけじゃないけどな。ああやってじゃれあったりするのを見てるとさ」
 大石が顎でしゃくるので、視線を戻すと、ちょうど菊丸が勢いをつけて不二の背に飛び乗ったところだった。
「英二。だからそんなに勢いつけなくてもっ……」
「にゃー」
「ったく。しょうがないな」
 苦笑しながらも不二は菊丸の腕を解かない。こんな不二、オレといる時には存在しない。
「まぁでも、手塚はああやって不二に甘えるタイプじゃ無いからな。だからって不二も手塚にああいうことしないだろうし」
「まぁな」
 だが、そうだな。淋しくないといえば嘘になるだろう。あのやり取りを見ていると、自分に対するもどかしさを覚える。
「てーづかぁ。助けてよ。英二、重くって……。手塚?」
「え?あ、ああ」
 菊丸を背負ったまま向かってきた不二を何となく睨んでしまい、オレは眼鏡を直すフリをして表情を戻した。
 けど、オレの感情は伝わったようで、不二は優しい声で菊丸を背から降ろした。
「不二?」
「ごめん、英二。そういえば僕たち、寄るところがあったんだ。だから、ここで。ねっ。……大石」
「え?あ。ああ。じゃあ、また明日な。……ほら、英二。行くぞ」
「えーっ。まぁ、いっか。不二、手塚、じゃっあねーん」
 大石も菊丸も、不二に言われるがまま、大人しくオレ達に背を向けて歩きだした。
 急な展開に呆気に取られたオレは、ただそれをぼんやり眺めてたけど。
「てーづかっ」
「っおい!」
 勢いをつけてオレの背中に圧し掛かってきた不二に、オレは思わずつんのめってしまった。何とか足を前に出して体制を整える。
「危ないだろう?というか、ここ、何処だと思ってるんだっ」
「羨ましいって思ってたくせにー」
「なっ……」
「聞こえてたんだよ、ちゃんと。大石との会話。僕も手塚といると楽でいられるんだけど。たまにはそうだね、こうやって違うことするのもいいよね。と言っても、マシンガントークはやっぱり君とは出来ないけど」
 クスクスと笑いながら、オレの頬に自分の頬を擦り付けてくる。さっき菊丸に不二にしていたように。
「どう?気分は」
「……重いな」
「だろうね」
 楽しそうな声で言うと、不二はオレから手を離して隣に並んだ。今度は腕を組んでくる。これはいつものことだ。
「ねぇ、手塚」
「なんだ?」
「ヤキモチ。嬉しかったよ」
 オレを見上げて本当に嬉しそうに言う不二に、オレは不覚にも顔を赤らめてしまった。だが。
 今日みたいな日も、悪くない。そんなことをぼんやりと思った。
(2009/9/4)
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