「いらっしゃい」
「……ふん」
久しぶりに来た飛影は、首輪をつけていた。
どういう意味があってそれをつけているのか気になったけど。彼があまりにも普通にしているし、ここで機嫌を損ねて帰られても嫌なので、オレは何も訊かないことにした。
ただ、訊かないことにしたからといって、気にならないわけではなく。
ベッドの真ん中で猫のように丸まって眠り始めた彼を横目に、オレは色々と思考を巡らせた。
彼が、首輪をアクセサリーの一種として嵌めることはまずないだろう。盗賊であっても、氷泪石以外の宝石は全て、何かを買ったり取引の道具として使ってしまう。宝石自体に、興味を持っているわけじゃない。
じゃあ、誰かに嵌められた?誰に?
彼は所有されることを嫌う。それに、彼を所有出来る奴なんて、いたとしてもオレくらいしか…。いや、躯がいる。アイツなら。組み手をする時に、互いを賭けることだって在り得なくはない。
でも、だとしたら、何故飛影は今オレのところに来ることが出来た?抜け出してきたのか?それとも…。
それとも、首輪をつけることを条件に、逃がしてもらった、とか?
だとしたら、少し、嬉しいかもしれない。彼が他の誰かのものになってしまったことは哀しいけど、プライドを捨ててまで、オレに会いに来てくれるなんて。
けど。やっぱり、この首輪は、邪魔だ。何とかして外せ――。
「ふん。そんなに気になるのなら、訊けばいいだろう?」
ベッドに座り首輪に伸ばしたオレの手を掴むと、彼はオレを見つめて薄く微笑った。
「起きて、たんですか」
「お前は、分かりきったことは訊くくせに、分からないことは訊かないんだな。つくづく、わけの分からん奴だ」
オレが驚いたことが嬉しかったのか、彼は掴んだ手をより強く掴むと、くつくつと微笑った。そのまま、オレの手を引くから。オレは、気がつくと彼を組み敷くような体制を取らされていた。
「俺が、何故こんなものをしてるのか。知りたいんだろう?」
「……それくらい。訊かなくても想像がつきますよ。貴方が、誰かの所有物になったということでしょう?」
「まぁ、そんなところだ。だが、誰のかは貴様には到底想像もつかんだろうがな」
「そうでもないですよ。貴方を所有できる人物なんて限られてますからね。大方、躯とそれを賭けて負けでもしたんでしょう」
捕われていない左手で、彼の首輪をなぞる。けれど、ほう、と感心したような声を上げた彼に、その手まで奪われてしまった。
「だが、それは外れだ」
「………じゃあ、一体、誰の?」
「人間界にいすぎて、勘やら何やら、鈍ったか?」
そう言ってまたくつくつと微笑うと、彼はオレの手を解放した。その代わり、唇を奪われる。
「まだ、分からないか?」
「………自主的にこういうことをしてくれるのは嬉しいけど。出来れば、オレが嵌めてあげたかったかな」
「こうでもしなければ、貴様の間抜けな顔を見れないだろう?」
「意地が悪いんですね」
「ペットは飼い主に似ると言うからな」
「………成る程、ね」
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