32.こたつと猫とみかん(蔵飛)

「…はい、どうぞ」
「……ふん」
 礼も言わず、皮を剥かれた蜜柑を手にとると、彼はそれを一房、口に入れた。
「美味しいですか?」
「お前は不味いものを俺に食わせるつもりだったのか?」
 今度は質問を質問で返す。
 いつもそうだ。はっきりとした答えを言葉にしてくれない。けれど、もう一房食べる彼は、彼なりに答えを告げたつもりなのだ。
 表情や態度で分かっていても、言葉で欲しいこともあるのに。それを彼は分かってくれない。
 元々独りで生きてきた彼だ。会話は苦手だから、話さないで済めばそれに越したことは無いのだろう。
 だからこそ、言わなくても分かってくれるようなオレの傍にいてくれるのかも知れない。
 ……かも知れない、か。
 そういえば。この関係について、何ひとつ明確な言葉を貰っていない気がする。
「飛影」
「…なんだ?」
「オレは、好き、ですよ」
「知っている」
「……飛影は?」
「嫌いな奴と長居出来るほど、器用には出来ていない」
 やっぱり言ってはくれない、か。
 まぁ、今ではそれこそが、彼らしい、と微笑えるからいいけれど。
「…寒い」
「え?」
 小さく溜息を吐いていたオレに、飛影は呟くと炬燵から出た。黙って見詰めるオレの肩を押しやり、無理矢理自分の体を捩じ込んでくる。
「飛影?」
「寒いのだから、仕方が無いだろう?」
 オレの膝の上に座り、置きざりにされていたみかんを引き寄せると、炬燵布団を肩までかけて彼は少し体を丸くした。
「…仕方ない、ですね」
 その姿を猫のようだ、と思いながら。オレは小さく微笑うと、彼の体を覆うようにして抱きしめた。

(2006/1/4)
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