44.運命の日
 もしあの道を右に曲がらなくて。いつものラインだけただ、歩いていたなら……。

「運命って、飛影は信じる?」
「なんだ?急に」
「あの時。オレが喜多嶋と帰っていなければ、あなたと今こうしてることもなかったのかもしれないと思うと。少し不思議な感じがして、ね」
 顕わになった白い肌。ゆっくりと押し倒すと、飛影の腕がオレのうなじを握った。唇が、重なる。
 幾つもの分岐を経てオレ達は今共にいる。
 あの日、オレが喜多嶋を送るために遠回りして帰ったのは人生の分岐の中のひとつにしか過ぎない。だが。その選択はオレと飛影の関係を作った初めの分岐。
 初めて体を重ねた日よりも、重要な。そう、いうなれば運命の日。
「運命というものがあるのかどうか、俺には興味がない」
 長い口付けのあと、シーツに後頭部をつけると飛影は言った。
「だが。お前はそれを選び、俺はお前を襲撃することを選んだ。それは事実だ」
「偶然だと?」
「そんなものは知らん。俺は事実を言ったんだ」
 五月蝿いとでも言うように、彼がまた、オレの口を塞ぐ。
 今度はオレが引き寄せられたから。体重を支える必要の無い左手で、彼の体を弄った。
 重ねた口の端から、彼の熱い吐息が漏れる。
「……あなたが、オレを選んだのも、貴方の意志?」
「さぁな。狐の色香に操られたのかもしれん」
「酷いな、それは。オレはオレの意志であなたを抱いてるのに」
「そう思うなら、くだらんことを考えるな。運命かどうかが分かったところで、現状が変わるわけでもないんだろう?」
 先を促すように、彼の足がオレの足に絡みついてくる。
 そうだ。この体温は紛れもない事実。必然だろうと偶然だろうと、それが揺らぐことはない。
「そうですね。くだらない考えでした。あなたがここにいるのに、無駄なことを考えるなんて。勿体無い」
「そう思うなら、今からその分を取り戻してみろ」
「え?」
「無駄なことを考えていた分だ。取り戻せるだろう?お前なら」
 昂ぶる感情の根元を掴み、飛影が笑う。
「それには。あなたの協力も必要ですよ?」
「……ふん」
 イエスともノーともつかない答えでは合ったけど、彼の体はちゃんと応えてくれていたから。
 オレは小さく笑うと、彼の感情へと指を伸ばした。
(2009/9/27)
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