52.大博打を打つ(蔵飛&ムクロ)
「生憎だが、飛影はもういない。恐らく、もう戻っては来ないだろう」
 総てを見透かしたような言葉。だが、意外だという気はなしなかった。意外だったのは、彼が失踪したことだ。

 黄泉を抱いた。
 奴からの申し出だったわけじゃない。確かに、奴もそれを望んではいたが、先に行動を起こしたのはオレだ。
 理由は愛情じゃない。欲望でもない。……彼が。飛影が邪眼を通して見ているのを感じたからだ。

「そんなに死にたいのなら、俺が殺してやろうか?」
「昔の女に殺されるつもりはない」
「今の女になら構わないのか?」
「……どうせなら、もう一つの結末の方を願いたいな」
「それは無理な話だ。黄泉の顔など、見たくもない」
「なら、オレは帰ります」
「何処へ?」
「……さぁ?何処でしょう」

 人間界へは戻れない。オレが死んだと思っている奴等の記憶を総て消してしまえばまた南野秀一として生活出来るのだろうが、今はそんな面倒なことをしてまで人間界へ戻りたいとは思わない。
 だからといって、黄泉の所へ行くわけにもいかない。奴があの夜のことをどう捉えたかは知らないが、少なくともオレには愛情などなかった。あったとするなら、殺意だけだ。
 どちらを殺してくれても構わなかった。飛影が手を下すのであれば。オレでも、黄泉でも。
 そう思って黄泉を抱いたのだが。
 まさか、こんな結末になるとは思わなかったな。用意した赤と黒以外の数字が出るなんて。考えても、見なかった。
 ……結局、その程度でしかなかったんだ。飛影の、オレに対する想いは。きっと……。


「もう出てきていいぞ、飛影」
「……何故あんな嘘をついた?」
「お前のためを思ってやったんだ。そう睨むな。それとも、見つけられたかったのか?」
「……お前は、蔵馬とどう」
「逃げているくせに、気になるのか?」 「誰が逃げてなどっ……。別に、蔵馬が何処で誰を何をしていようが、俺には関係ない」
「ほう。蔵馬が、な」
「っるさい。……クソッ」
(2005/11/24)
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