53.視線が痛い(蔵飛)
 背後から視線を感じて、オレは思わず溜息をついた。
 焼きつくような視線。だけどその姿は見えない。オレだけが、見られている。
「出てきてくださいよ、飛影」
 振り返って視線の先を辿っても、無駄。見える距離に彼がいるわけが無いし、見える距離にいたのなら振り返った時点で何処かへ消えている。
 今日は、未だに視線を感じているということは、彼との距離は大分離れているらしい。
 オレからは確認することが出来ないけれど、恐らく彼からしたらオレと目が合っているのだろうと思う。彼の視線はそれだけ細く絞られ、オレに向けられている。
「飛影」
 邪眼は視覚だけじゃなく聴覚にも有効だと聞いたことがある。だから、オレの声は届いている。……筈だ。
「出てこいよ。オレを怒らせたいわけじゃないだろう?」
 思わず、口調が昔に戻る。最近は視線に対して苛立つ時間が短くなったと自分でも思う。だが、こうも毎日視線を浴びていたら誰だって短気になる。
 大体、理由が分からない。
「……オレは雪菜ちゃんじゃないんだ。隠れなくてもいいでしょう?」
 消えてしまった視線に、呟く。もう、オレの声は彼に届かない。
「まったく……」
 飛影がオレに会わない理由をオレは知らない。オレを見続ける理由も知らない。居場所も知らない。だから手のうちようがない。
「……ほんと、いい加減にしてくださいよ」
 もう何も感じない空に向かって呟くと、オレは踵を返した。今日はもう、視線がやってこなければいいと思いながら。
(2009/9/11)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送