57.君にくびったけ(はるみち)
「はるか。お願いだから、そんなに見つめないで」
「何で?」
「何でって……。色々やりにくいわ」
「君は他人の視線をいちいち気にするような人じゃないと思うんだけど?」
「それって意地悪?」
「何が?」
「他人じゃないわ。貴女の視線よ?」
「そろそろ慣れてくれよ。じゃないと困る」
「何故困るの?」
「君はいちいち絵になるからね。ずっと見ていたくなる。だから、そんなに気にされると困るんだよ」
「だったらはるかが慣れたらいいじゃない」
「僕が?何に?」
「私に」
「それは無理だよ」
「どうして?」
「……ねぇ、みちる。君、僕に何かした?」
「え?」
「可笑しいんだ。君が僕を好きだったはずなのに、いつの間にか僕の方が君に首っ丈なんだ。どういうカラクリなんだろう?」
「……知らないわよ、そんなの。はるかが勝手に私に惚れたんでしょう?」
「まぁ、そうなんだけど、さ」
「……はるか」
「何?」
「貴女、一つ間違えているわ」
「ん?」
「私も、貴女にくびったけなのよ。こう見えても」
「……へぇ」
「知らなかった?」
「知ってた」
「そうなの?」
「じゃあ僕も間違いを直そう」
「私は何も間違えてなくってよ」
「君じゃないよ。僕の発言の間違いだ」
「何?」
「君は僕に首まで浸かってるのかもしれないけど、僕は頭の天辺まで浸かってるんだ。呼吸(いき)が出来ないくらいにね」
「……だったら私なんか見なければいいわ。そうすれば呼吸が出来るんでしょう?」
「そんなことが出来るならとっくにしてるよ。出来ないから、困ってるんじゃないか」
「あら。困っていたの?」
「そう見えない?」
「見えないわ。だってはるか、自分の意志で私を見ているんでしょう?」
「そうだね。そう思ってた」
「……思ってた?」
「ついさっきまでは。目をそらそうなんて考えたことがないから気付かなかったけど。……どうやら僕は、意志に関係なく君を見てしまうらしい」
「だったら溺れ死ぬしかないわね」
「冷たいな」
「じゃあ……。私も一緒に潜ろうかしら?」
「心中する気?」
「まさか。互いの息で、呼吸するのよ。こうして……。ね?」
「……無理だよ、そんなの」
「どうして?」
「君の息だけを飲むなんて、出来ないからさ。そうだろ?」
「……知らないわ、そんなこと」
(2009/9/10)
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