61.修羅場(不二×立海)
 こういうのを修羅場って言うのだろうか、と。膝に肘をつき、その上に顎をのせながら僕は思った。
 いや、でも、少し違うかな。僕にとっては修羅場じゃない。そうだな、コメディだ。
 目の前に広がる光景は、確かに滑稽だ。いや、本人達はとても真剣なんだけれど、その内容が僕には可笑しくて仕方がない。
「だから不二は――」
「何言ってんスか。不二サンはオレの――」
「キミたちは引き際というものを学んだ方が良いよ」
 小さなテーブルを囲んで、立海のレギュラーたちが、僕の取り合い。それの何が面白いって、そこに僕の意志が存在しないことだ。
 話し合いでも実力行使でも何でも良いけど、決着をつけたところで僕がそれを認めなければ意味がないのに。
 どうも立海の人達に好かれているらしいと気付いたのは、今さっき。僕についての話し合いが始められたときだ。
 ただ一人外側から冷静に彼らを見ている柳くんに聞いた話によると、立海には僕のような優しい人間が存在せず、そのために人気があるらしいとのこと。
 僕は果たしてそんなに優しい人間なのだろうか。それを聞いたときに疑問に思ったけど、勘違いしてるならそれはそれで面白いと思って口にはしなかった。
 僕を優しいと判断した理由は色々あるらしいけど、一番は怪我を負わされたにも拘らず切原くん対して笑顔で接していたことらしい。
 笑顔なら幸村くんの方が充分に魅力的だろうと思ったのだけれど、どうも彼の場合は後ろに黒い影が見えるから寧ろその笑顔が怖いのだそうだ。
 他のメンバーはというと、やられたら倍返し、というのが基本の人が多く。唯一桑原くんが仕返しをしない性格だけど、自主的な優しさはない、と。
 それで、だから、僕が必要だって?
 よく分からない理屈だ。
 だけどそれはそれで面白いと思う。あくまで、傍から見ている分には、の話だけど。
 この話し合いの結果が出たとして、これで僕が彼と付き合っているなんてばらしたら。本当に修羅場なんだろうな。
 その様を思い浮かべて、思わず笑ってしまう。
 どれだけ彼が強くても、この面子に囲まれて、どうやって切り返すつもりなのだろう。
 勿論、僕の意志を引き合いに出せば、幾らでも言い負かすことは出来るけど。彼はそんなことはしないだろう。
 そもそも、そんなことをするような性格なら、今こうして話し合いなんかしないはずだし。
「……このまま黙っていると、お前の相手を決められてしまうぞ?」
 話し合いというより最早子供の口喧嘩になってきた彼らを見て、柳くんが言った。メモを取っているのは、決まった相手を打ち負かすためなのか。でも。
「こういうのって、他人が決められることじゃないから」
 微笑って言う。すると彼は溜息をついてノートを閉じた。僕の隣に、腰を下ろす。
「じゃあ、不二が決めてくれ。俺の予想だと――」
「悪いけど。僕だけが決めることでもないから。それに、君の予想には君の願望が混ざるから。当たらないよ?」
「なるほど。……俺達の行動は総て無駄だということか」
「流石」
 彼の頭の回転の速さに、思わず手を叩く。すると、さっきまで白熱していた話し合いがピタリと止んだ。
 全員が、僕を見る。
 彼と目を合わせると、彼は少しだけ目を細めた。睨みつけたつもりだったのかもしれない。
「柳っ、お前抜け駆けとは……」
「ま、待て。俺は――」
「言い訳は認めないよ」
 真田くんと幸村くんの手が伸びて、あっという間に柳くんを輪の中へ取り込んでしまった。彼の目は柳くんへ非難の目になる。
 全く。しょうがない人たちだな。
 このまま見ていても良かったのだけれど、繰り返しばかりの内容にも少々飽きてきたことだし、と。僕は本当の修羅場を彼に迎えさせるため、彼らの輪の中へと足を踏み出した。
(2009/9/11)
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