69.負ける訳にはいかない(不二塚)
「僕は同じ相手には二度負けない。いや、相手が同じかどうかなんて関係ない。僕は負けない。もう二度と。負けるわけにはいかないんだ」
「そうか。だが、オレは負けない」
「知ってる。越前と誓ったんだよね」 「……棘があるな、その言い方」
「当然。棘、含めたからね」
 喉の奥で微笑うと、不二はベースラインに立った。真っ直ぐにオレを見つめる。
「僕は勝つよ。君に」
「オレは負けない。……いや、オレは勝つ」
 負けない、などと消極的な意志では不二には勝てない。
 そうだ。オレは、勝つ。不二に。勝たなければならない。 「強気だね。そうじゃないか。事実、君は強い」
「だが、お前は。……オレに、勝つつもりでいるんだろう?」
「そうだよ。だ、か、ら、勝つんだ。君に」
「更なる高みに、上るためにか?」
「……そういうことにしておくよ」
 そういうことに?どういうことだ?
「油断してると、負けるよ?」
 不二の言葉に気を取られたことを悟られたらしい。不二はポケットからボールを取り出すと、不敵に笑った。
 深呼吸をして、集中を高める。
「オレは油断などしない。お前にだけは、絶対に」
 決して負けてはならない。勝たなくてはいけない。
 不二に殆ど神格化ともいえるような感情をもたれていることは分かっている。それが本来の自分からかけ離れたものであることも知っている。
 だからこそ。オレは、負けるわけにはいかない。不二が本当のオレを知りたがるように、オレは不二の見ているオレを知りたい。そのためにも。
「こい、不二」
 声を張り上げて構える。瞬間、交差する視線。吹いていた風がピタリと止む。
 それを合図したかのように口元を歪めて微笑むと、不二は黄色いボールを青い空へと高く放った。
(2009/10/4)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送