74.利害の一致(周→裕、不二←観)
「不二クっ……」
 オレは兄貴から解放されたい。観月さんは兄貴と付き合いたい。
 利害は一致したはずだ。
 だからオレは兄貴を呼び出して、観月さんと2人っきりにしたんだ。
 それなのに。なんで、こんな。
「……観月」
 体育倉庫の薄い壁を通して聞こえてくる熱い息と甘い囁きに、オレはその場にしゃがみこんで耳を塞いだ。
 逃げ出したい。そう思うけど、足が動かない。
 理由は見張りをしていなきゃなんねぇって事だけじゃなく。もっと他の。
「くそっ」
 何で兄貴は誘われたからって観月さんなんか抱いてんだ?オレのこと好きなんじゃなかったのかよ。
 いや、てか、なんでオレ、こんなにイラついてんだ?
 オレは兄貴が嫌いなんだろ?解放されたいんだろ?テニスだけじゃなく、ありとあらゆる兄貴の呪縛から。
 だからこんなこと。
 違う。
 違わない。
 お前は――。
「っるせえよ」
 聞こえてくる声を無視しようとすれば、自分の声が五月蝿くて。自分の声を無視すれば、兄貴達の声が響いてきて。どうしたらいいか分からない。
「うるせぇよ、兄貴っ」
 声は呟きにしかならなくて。いっそ怒鳴ることが出来たらどれだけいいかと思った。
 今更、気付かされるなんて。残酷だ。
 いつの間にか苦しいほどに張り詰めたそれに手を伸ばす。触れると、中から聞こえてくる息と同じものが漏れた。
 恥ずかしい。
 そう思ったのは一瞬で。
「兄貴っ……」
 壁にもたれて耳を澄ますために目を瞑ったオレは、脳裏にその姿を浮かべながら震える手を動かした。
(2009/9/21)
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