75.我が人生最悪の日(はるみち)
「……最悪だ」
 週刊誌に撮られた。誤解だといってもああいう輩は否定すれば否定するほど事実だと思うだろう。本当に、最悪だ。
 相手がみちるなら、問題はない。世間的には問題かもしれないけど、僕たちにはそんなこと、関係ない。
 いや、相手が誰でも別に構わないんだ。アイツじゃなければ。
「嫌なところ、撮られてしまったわね」
「……みちる」
 頭を抱えている僕の手を取り顔を覗かせると、みちるは僕の額に唇を落とした。
「そう落ち込まないの。まだ出版されたわけじゃないんだから」
「けど来週には……。世間に僕とアイツが出来てるって誤認される。誤解をとくにしても、変わり身を立てるつもりはないし、だからって僕たちの関係を公表するのも、なんか……」
「そうね」
 困ったとでも言うように、みちるが溜息を吐くから。僕はまた、頭を抱えてしまった。
 みちると歩いていたら偶然、アイツとお団子頭が歩いているところに出くわした。しかも、手なんか繋いで。だから僕は、その手を捻りあげ、お団子頭の前から連れ去った。そこを、勘違いしたブンヤが激写したというわけだ。
 実際は睨み合っていただけだとしても、事情を知らない奴等から見たら至近距離で見つめ合っているように見えなくもないだろう。これなら、不仲だとか、お団子頭を巡っての三角関係だとか書かれる方がマシだ。
「あああああっ」
「はるか。そんな癇癪起こさないの」
「何でよりによってアイツなんだ?人生最大の汚点じゃないかっ」
「困った人ね」
 困ったって。僕がか?
 苦笑するみちるにそういおうとしたけど、その時には既に、みちるは僕から目をそらしていた。立ち上がり、固定電話の受話器をとる。
「……みちる?」
「権力というのは、こういう時に使わないと損よ。――あ。もしもし、お父様?」
「おい……」
 チラチラと僕を見ては、安心してとでも言うように微笑む。
 暫くして受話器を置くと、今度こそみちるは正面を向いて満面の笑みを見せた。
「大丈夫。これで貴女の記事は消えたわ」
「……随分と」
「なあに?」
「いや。危うく、今日が人生最悪の日になるところだったよ。助かった。みちるは僕の救世主だ」
「救世主だなんて、大袈裟よ」
「そんなことないさ。あんな記事が出るくらいなら、地球が滅んだ方がマシさ」
 膝に寝転がって微笑う僕に、もう、と呟きながらもみちるも微笑っていた。
(2009/11/24)
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