76.手強い敵(外部ファミリー)
 僕たちが暮らす上で、厄介なのはせつなの存在だと思っていたけれど。どうやらそれは間違いだったらしい。
 一番厄介なのは……。
「はるかパパ。これ読んで」
 寄り添うようにしてソファに座っている僕たちの前に立つと、ほたるは持っていた子供向けの絵本を差し出した。
 こんな本、もう特殊相対性理論まで理解しているほたるには必要ないし、読みたいのなら自分で読めるはずなのに。
「いいよ。隣おいで」
「ここがいい」
 それでも、ほたるの可愛さに負けて承諾すると、ほたるは当然のように僕の膝に座った。まだほたるが幼児であった頃にそうしていたように。
 この無邪気さが、なかなか手強い。
 嫌な予感がして隣を見ると、みちるが満面の笑みを浮かべて僕たちを見ていた。相当怒ってるな。内心、溜息をつく。
「ねぇ。読んで読んで!」
「あれ?これ、前に読まなかったか?」
「いいの。これ読んでるときのはるかパパの声、すっごく好きだから」
 僕の首に腕を回して、嬉しそうに微笑う。少し頬が赤いのはどういった心理からなのか。考えただけでぞっとする。
「駄目?パパ飽きちゃった?」
 僕たちの誰よりも表情が豊かなほたるは、なかなか読み始めようとしない僕に潤んだ目をしてみせた。
 相手が誰であれ、こういう目をされたらたまらない。
「そんなことないさ。じゃあ、読むよ」
 優しく微笑み、頭を撫でてやる。すぐに笑顔に変わるほたるに、僕はごめんという意味の視線をみちるに送った。
 思い切り、目をそらされる。
 相手は子供だぜ?
 そうは思うけど、侮れない。なんといっても、ほたるはせつなも味方につけている。
 そうなんだよな。せつなは、僕とみちるがスキンシップをとってるとほたるの教育によくないってすぐに怒るくせに。ほたるがこうして僕に抱きついてきても何にも言わないんだ。
 それも何もかも、子供という生物の可愛さ故なのだろうと思うけど。少し、不公平だと思う。
 多分それは、みちるも抱いている不満だろう。
「やっぱりパパが読むとすっごく素敵なお話になるね」
「そうかな?」
「うんっ」
 とはいえ、こんな嬉しそうな笑顔を見せられると、不満はすぐに消えてしまう。
「みちるママもそう思うでしょ?」
「……ええ。そうね。はるか、素敵よ」
 それは、隣で僕の声を聴いていたみちるも同じようで。
「ほたる。こっちへ」
 みちるは手招きをしてほたるを自分の膝に乗せると、いとおしそうに抱きしめた。
 まるで、さっきまでのみちるの不機嫌は、ほたるに対してではなく僕に対してのものだと言わんばかりに。
 やれやれ。
 本を閉じ、足を組む。
 本当に。ほたるは厄介だ。その笑顔ひとつで不満も何もかも消し去ってくれるんだから。
 みちると何やら囁きあっては楽しそうに笑うほたるに、僕は溜息をつきながらも微笑んでいた。
(2009/10/7)
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