80.危険を察知(不二塚&菊)
「不二……」
 突然僕の名前を呼ぶと、手塚は僕の肩に手を回して抱き寄せた。
 余りにも突然で意外な出来事に、声が出ない。
「ふっじーっ!」
 でも、その理由はすぐに分かった。
 僕がさっきまで居た場所に、両手を広げた英二が飛び込んできたんだ。
「なんだよ、不二。避けんなよな」
「僕のせいじゃないよ。……ありがと、手塚」
 また僕の肩を掴んでいる手塚の手に自分の手を重ねて言う。すると、案の定、手塚は赤い顔をして僕から手を離した。
 だよね。君が人前で好き好んで僕とくっついたりするわけが無い。
 そうは思えど、僕の危険を察知して庇ってくれたのは嬉しい。いつも僕だけが手塚を好きみたいだって思ってしまうけれど、そうじゃないって分かるから。
「菊丸。大会中だ。元気があるのは結構だが、不二に怪我をさせるようなことはするな」
 咳払いをして顔の赤みをとった手塚は、僕の少し前を行く英二に張った声で言った。
 怒られた。しゅんとするのかな?そう思ったけど、振り返った英二は吹き出すのを堪えるような表情をしていた。
「英二?」
「何だよ。不二、聞いてなかったの?」
 不思議がる僕に、英二はニヤニヤと笑うと、両手を掲げて伸びをし、その手を頭の後ろに組んだ。
「何が?」
「不二に怪我をさせるようなことは、だって。俺や他の奴等はどうでもいいらしいよ、手塚」
 言い切ってから、英二は耐えられなくなったのか、体を折って笑い始めた。後ろ向きで危なくないのかな、と思っていると、走ってきた大石が英二の手を取って正面を向かせた。それでも、まだ英二は笑ってる。
「そうなの?」
 そんなやりとりを見ながら、それでも横目で僕は手塚を見た。
「……言葉の綾だ」
 僕を見ず、英二たちを見ながら不機嫌そうに呟いた手塚だったけど、その顔は折角咳払いをしたのにも関わらず再び真っ赤になっていた。
(2009/10/13)
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