82.口封じ(はるみち前提、はるほた)
 公園の片隅で立ち尽くしている見慣れた後姿に、はるかは苦笑すると足音を殺して近づいた。
「ほたる」
 両肩に手を乗せて呼ぶと、小さな体は僅かに跳ねた。
「はるか、パパ……。もうっ、驚かさないでよ!」
 振り返ったほたるは、怒った表情を作っていた。それは自分の愛する人の怒り方に似ていて思わず微笑んだが、つぶらな瞳の奥に潜む不安をはるかは見逃さない。
「どうする?」
 何を、と聞かずに問う。その言葉に、ほたるは作っていた表情を解き、はるかと子供達を交互に見た。冷静に考えて導き出された選択と、感情が導きだす選択が合致しないらしい。
 やれやれ、とはるかは苦笑した。そして自分もまた、二つの選択肢のどちらも選べないことに気付いた。ほたるの今後を思うのなら、子供達の輪の中に入れてあげるべきなのだが。
 いいじゃないか、まだ。僕達がいる間は。
 傾いた天秤が出した答えにせつなの怒る顔が浮かび、それを打ち消すためにはるかは無理矢理に楽観的な考えを浮かべた。それから、ほたるの小さな手を取る。
「はるかパパ?」
「甘いものでも、食べて帰ろうと思うんだけど。一人じゃちょっとさ。付き合ってくれるかな?」
 はるかの言葉にほたるは暫くの間黙って子供達を眺めていたが、やがてはるかの手を握り返すと静かに頷いた。
「サンキュ」
 自分に笑みを見せてくれなかったことに少しだけ不満が残ったが、ほたるが頷いたことにはるかは歩き出そうとその手を引いた。
 しかし、でも、というほたるの声で動きが止まる。
「どうした?」
「せつなママに、怒られちゃう。……はるかパパが」
 覗き込むように顔を上げたほたるに、はるかは苦笑した。そう、確かに怒られるとしたら自分だろう。その様がリアルに思い浮かぶ。
「優しいね、ほたるは。大丈夫。ほたるが黙ってたらバレないから」
「……私、自信ない」
 呟いて再び俯いてしまったほたるに、はるかは手を離すと正面に回りこんでしゃがんだ。ほたると目を合わせる。
「大丈夫。今から、口封じのおまじないするから」
 こうやって、と続けると、はるかはほたるの唇に軽く触れた。驚いたほたるが、赤面して後ずさる。
「……パパ」
「さぁ、これで僕達は共犯だ。みちるに怒られたくなかったら、何が何でも内緒にしないといけないな」
 微笑いながら立ち上がったはるかは、行こうか、とほたるに手を差し伸べた。その手を赤い顔をしたまま暫く黙って眺めていたほたるだったが、うん、と今度ははるかに笑顔で頷くと、強くその手を繋いだ。
(2009/9/17)
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