84.懺悔タイム(不二塚)
「嘘だった」
 疲れ果て下腹部を汚れたままにベッドに横たわると、放心していると思っていた彼が突然口を開いた。
 その声は、僕に浴びせ続けた罵声と、僕によってあげさせられた嬌声のせいで酷く枯れていた。そのことに胸が痛み、僕は天井を見上げたままただ黙っていた。
 隣で、シーツのすれる音がする。
「嘘だったんだ。お前を嫌いだというのは」
 彼の顔が視界に入ってくる。彼の言葉の意味が遅れて僕の頭に響き、けれどそれに驚く前に口付けをされた。それは僕が彼にしたような濃密なものではなく、軽く触れるだけのものだったけれど、僕を黙らせるだけの力はあった。
「お前は、追いかけるのも追いかけられるのも楽しいといった。だが、欲しいものが手に入ると興味をなくしてしまうともいった。オレはお前を追いかけたかった。だが、それは同時にお前が欲しいものを手にするということでもあった。だからオレは追いかけられる方を選んだ。嫌いだとお前に何度も言った。自分にも言い続けた。それで本当にオレがお前を嫌いになれるのなら、それでもいいと思っていた。どうせ、繋げない想いなのだから」
 僕の額に自分の額を重ね、淡々と言う。だけど、僕の頬は確かに雫が落ちる感触を覚えていた。涙を拭ってやりたいけれど、手が動かない。
「だったら、何で今、本当のことを?」
 辛うじて口だけが動く。だけど、僕の声は自分でも驚くほど掠れていた。僕は叫んでいないはずなのに。喉が、渇く。
「この結果はオレが望んでいたものだ。だが、お前が傷つくことは望んではいない。感情に任せてオレを抱いたことを後悔して欲しくはない。無かったことにされたくはない。それなら、お前に興味をなくされるほうがまだマシだ。だから」
 今日のことは、忘れないで欲しい。
 力なく僕の上に体を重ねた彼が、耳元で囁く。それは彼の体よりも酷く重く、体温よりも熱く僕の中に入ってきた。罪を告白したのは彼なのに、僕が楔を打たれたような気分になる。
 好きだと暗に言われているのに、喜べないのは何故だろう。こんなにも欲しかったのに。彼は告白が少し遅かったのだろうか。僕はもう、彼の中に射精したことで興味をなくしてしまったのだろうか。
 それはあまりにも、酷い話だ。
「手塚」
 手を持ち上げて、彼の背に置く。この先、彼の体を抱きしめるのかそれとも引き離すのか。それは僕にも分からない。
 でも今はただ、このまま彼の重みと体温を感じていたいと思った。
(2009/11/08)
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