89.腕枕(はるみち)
 僕の腕の中で眠る安らかな顔を見ていたいと思うのに、彼女は腕枕をすることを嫌がった。
 どうして、と訊くと、はるかの温もりをもっと感じたいから、と言った。
 それなら尚更、腕枕は必要だろうと思ったのだけれど、彼女はやはり首を縦に振らなかった。
 じゃあどうすればいい。困惑する僕に彼女は微笑むと背を向けた。
 みちる。
 怒らせてしまったのだろうか。そんな不安が一瞬、頭を掠める。けれど、それは杞憂だった。
 彼女の体がおずおずと後退してくる。そして、僕の胸と彼女の背中が重なった。
 ベッドに接していない左腕を伸ばせば、彼女の腕が捕まえて自分の体に絡ませてくる。
 この方が、もっと沢山はるかを感じられるわ。
 そう。確かにそうだね。
 感じる彼女の温もりとその嬉しそうな声に優しく頷くと、僕はその髪に顔を埋めた。
 そして彼女の寝顔を見れない不満をかき消すように、胸いっぱいに彼女のにおいを吸い込んだ。
(2009/9/16)
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