91.可愛さ余って憎さ100万倍(周裕)
「やめろよっ!」
 胸を押され、予想もしていなかったから、僕は無様に尻餅をついた。
 裕太は僕を見下ろし、口元を何度も拭っている。まるでそこが汚れているかのように。
「もう、こんな関係終わりにしたいんだ。そのためにオレはルドルフに行く」
 一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
 終わりにしたい?何を?こんな関係って、どんな?
「……裕太も喜んでたじゃないか。あんなに善がって」
 緩慢な動きで立ち上がる。真っ直ぐに裕太を見つめると、裕太は更にキツい目をして僕を睨み付けた。
「最初は平気だった。オレも兄貴を好きだったし。でもこの感情が異常だって、オレの頭が可笑しいんだって気付いて」
「それからは、セックスをするのが気持ち悪くなった?でも、感情に体はついてこなくなったって?……随分と勝手だね」
「勝手なのはっ、兄貴だろ。オレが何も分からないと思って好き勝手……」
「僕は自分のしてることが異常だと思ったことはないよ」
 裕太の肩を掴み、深く口付ける。どんなに甘いものを与えても裕太は僕から逃れようともがくから、思わずその唇を噛み切ってしまった。
「っ」
 裕太の唇に血が滲んでいく。
「可笑しいよ、兄貴。こんなの、異常だ……!」
「……それでも構わないさ。誰が見て異常でも。僕が見て正常なら。いや、僕から見て異常でも、構わないか」
 異常。そうかもしれない。と、今思う。
 ただそれは、僕が裕太を好きな感情に対してじゃなくて。僕が今、裕太に憎しみを抱いていることに対して。
 こんなに裕太を憎くなるなんて、異常だ。ついさっきまでは、目に入れても痛くないほど、可愛かったのに。
 これが可愛さ余って憎さ百倍って奴なのかな。いや、この気持ちは百倍じゃ済まないだろう。……百万倍だ。
「裕太。じゃあ、もう終わりにしよう。僕も今、裕太を嫌いになったから」
「え?」
「これで、終わりだよ」
 もう、裕太の顔も見たくない。だから。裕太にはこれからまじないをかけよう。
 僕に怯えて暮らすように。僕から逃げ、隠れるて暮らすように。
「あ、兄貴?」
 それでも。僕のことを考えれば体が疼いて仕方がなくなるように。
「裕太。好き、だったよ」
 怯える裕太を投げるようにベッドに押し倒すと。僕は触れたくもないその体に、壮絶な快楽を与えるよう、そっと触れた。
(2009/10/12)
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