95.天秤にかける(はるみち)
「私とほたる。はるかはどっちをとるの?」
「おいおい。何の冗談だよ、それ」
「……再来週の土曜日よ。ほたるの運動会。私のコンサートと同じ日だわ」
「コンサートは夜だろ?」
「じゃあ貴女はほたるをとるのね?」
「そういう、天秤にかけるような真似。やめてくれないかな」
「どうして?」
「較べられるわけないだろ?君と、ほたるなんて」
「じゃあ貴女の天秤は釣り合ってるっていうこと?」
「そうじゃなくて。次元が違うんだよ。だから同じ天秤には乗せられないってこと」
「そうなの?」
「じゃあ訊くけど――」
「はるかをとるわ」
「え?」
「もう片方に何が乗ろうと、私ならはるかをとるわ。相手がほたるでも、あの子でも、世界でも」
「……随分と、大きく出るな」
「本心だもの。私は貴女を犠牲にするくらいなら世界を滅ぼす」
「そんなことしたら、君も僕も死ぬぜ?」
「貴女の居ない世界で生きるよりは、貴女と共に地獄に落ちたいの」
「……まったく」
「呆れた?」
「少しね。……ちょっと、待ってろ」
「何?」
「せつなに。再来週のこと、頼んでくる。ほたるにも謝らなきゃな」
「はるか」
「でも、リハーサルは午後からだろ?せめて顔くらいは出してやろうぜ?ほたるは僕の家族じゃなくて、僕たちの家族なんだから」
「……そう、ね」
「なんだよ。納得いってない顔だな」
「そんなことないわ」
「その顔じゃ、説得力ゼロだよ。……みちる」
「…………」
「分かった、僕の負けだ。ほたるは、なんとか説得するよ。ほたるは、聞き分けがいいからね」
「何よ、それ。まるで私が聞き分けのない子みたいじゃない」
「みたいなんじゃなくて、そうなんだろ?それとも、今から聞き分けるか?」
「はるかっ」
「大丈夫。嬉しいんだ、こうみえてもね。だからちゃんと説得してくるよ。な?」
「……ほんとに」
「何?」
「これじゃあ私が子供みたいだわ」
「……子供なんだよ。僕たちは」
「貴女も?」
「勿論」
「……せつなも?」
「せつなは……どうだろう?せつなはほら、次元が違うから、さ」
「はるかったら。知らなくてよ?」
「ま、君が黙ってれば分からないさ」
「もう」
(2009/9/7)
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