206.嘘八百(周裕)
「好きだよ」
 兄貴はよく、そう言ってはオレを抱くけど。
 オレは知ってんだ。その言葉は本当はオレに言いたいんじゃないってこと。
 だって、兄貴はオレの名前を言わない。好き、って言葉の前後には。絶対。
「……オレは、兄貴が好きだぜ」
 それでも。例え、誰かの代わりでも。
「何、言ってるの。それなら、『オレも』でしょう?」
 微笑いながら、オレの額を軽く突く。だけど、一瞬だけその表情が凍ったことをオレは見逃してない。
 兄貴のことだから、オレが気づいてるって分かってるはずなんだけどな。こんな、あからさまにしなくても。
 それでも躊躇いを隠してオレを抱くのは、何処かで消化しないとならないほどに想いが強いのか、それとも。オレの気持ちを、汲んでるのか。
「好きだ」
「僕も」
 くそっ。微笑んで返す兄貴に内心で毒づく。
 それでもオレは、繋がった体を離すことがどうしても出来なくて。
「兄貴っ」
 それだったらと、オレは自分から兄貴にしがみついた。離れないように、兄貴の嘘の中にほんの少しでも本当が入り込むようにと。
(2010/02/03)
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