219.詭弁家(星はる)
 求められるから答えているだけだ。大体、この魅力に抗える男なんていねぇだろ。って。何度も自分に言い聞かせてないとどうにかなってしまいそうなあたり、オレは詭弁家になんてなれないと思う。
 だからいつも、コイツに丸め込まれるんだ。
「何、溜息吐いてるんだよ。失礼だな」
「お前だってよく溜息ついてんだろ」
「僕はいいんだよ。充たされるためにここにいるわけじゃないんだから」
 じゃあ何のためにここにいるんだよ。なんていつもの疑問がまた頭に浮かぶ。けど、オレは言葉を返さず、かわりにでかい溜息を吐いてみせた。オレを見る、天王の顔が不機嫌に曇る。いい気味だ。オレだってお前を満足させるためにここにいるわけじゃない。
 でもだったら何のため?
 ああ、ほら、また。どっちにしても答えの出ない、出したくない疑問が浮かんでくる。
 こういうとき、きっとコイツなら何かしら上手い答えを導き出して、自分を正当化してみせるんだろう。使命のためにと仲間を手にかけたみたいに。
 それとも。
「……お前さ」
「なんだ?まだ足りないのか?」
「違うよ。いい。なんでもねぇ」
「なんだ?気持ち悪いな」
「うるせぇよ」
「……しょうがないな。口でしてやるよ」
 そうだな。もしかしたら、正当化すらしてねぇのかもしれねぇな。なんて。躊躇いもなくオレのそこに手を伸ばした天王に、ぼんやりと思った。
(2010/02/20)
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