229.嫌な光景(不二塚)
 嫌な光景だな。
 コートに並んで立つ二人を見て、僕は不機嫌さが隠せなかった。
 悔しい思いをした後での、この光景はどうもキツイ。
 ずるいなぁ、乾。僕だって手塚と組んだこと、無いのに。
 以前、乾にシングルスをやれるお前が羨ましいと言われたことがある。
 でも、僕はシングルスだろうとダブルスだろうと構わない。手塚と一緒にテニスが出来ればそれでいい。
 それなのに、どうして。手塚はずっとシングルスだと思ってたから、僕はどっちでもいいなんて思ってたけど。
 ……手塚がダブルスを組むなら、僕もダブルスがいいに決まってる。手塚の隣は、僕の居場所だ。
「乾」
 手すりを掴む手に力が篭る。奥歯を噛み締めている自分に気付く。
 どうして僕はこうなんだ。さっきまで、テニスの事を考えてたはずなのに。
 僕にとってのテニス。それがなんなのか。ずっと考えてた。さっきまで。それのに、今は手塚のことしか頭に無い。
 ……いや、違う。これは。
「そうか」
 一緒なんだ。僕にとってのテニスは、そのまま手塚に繋がる。手塚の隣に居ることが、僕がテニスをする理由。勝ち続ける理由。
「馬鹿みたいだ」
 答えなんて、初めから出てたんだ。
 笑いが吹き出そうになるのを堪えて、コートを見る。
 さっきまでの不機嫌さが嘘のようだ。今は、乾と並んでいる手塚を見ても大丈夫。
 第一、今はコートに居るのは手塚ひとりだし、ね。
(2009/12/1)
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