233.煙に巻かれる(はるみち)
「どうしてそんな危険なレースに出ようとするの?」
「だから、これはね」
 そういうと、はるかはレースのパンフレットの上にファイルを広げた。そこには直線と英字が書かれていて、どうやらそれはマシンに関することらしいけれど、みちるにはよく分からなかった。
 いや、分からないわけではない。ただ、理解する気がなかった。
 また、煙に巻こうとするのね。
 生き生きと話し出すはるかの言葉を聞き流しながら、みちるは溜息を吐いた。
 はるかの言葉を理解して会話を始めれば、恐らくそれは果てしなく続くだろう。かといってこうしてはるかの言葉をただ聞き流していても、結局はみちるが呆れて投げ出すだけ。どちらにしても、こうなってしまった以上、みちるははるかとの会話を諦めるしかなかった。
 今までは。
「ねぇ、はるか」
 資料を指差すはるかの手に触れて、その名を呼ぶ。なにと視線を向けたはるかに、みちるは唇を押し当てた。
「それでね、はるか。話の続きなんだけれど」
 突然のことに言葉をなくしているはるかを他所に、みちるは微笑むと中断させられていた話を続けた。今自分が話していることはもしかしたらはるかの耳には届いていないかもしれないけれど、それでもはるかに煙に巻かれるよりはましだと思いながら。
(2010/04/09)
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