241.笑顔の人(不二リョ)
 いつも笑顔を絶やさない。そんな人だと思った。
 だけど。
 ――弟が、世話になったね。
 観月とかいう人との試合。弟が利用されていたと知ったあの人は、今まで見たことのない目をしてそいつを睨みつけていた。
 何て目をする人なんだろう。
 その時は、少し意外っていう程度だった。
 なのに。気がつくと、あの目をまた見てみたいと、あの人を見つめている俺がいた。
 なんで?別にあの人がどんな目をしてたって、それが俺に降りかからなけりゃカンケーないじゃん。
 そう思うのに、どうしても。あの人を見ることを止められない。
「どうしたんだい?越前くん」
 俺の視線に気付いた不二先輩が、聞く。俺は帽子を目深に被ると、なんでもないっス、と小声で答えた。
「そう?ならいいけど。ほら、次、僕たちの番だよ」
 優しい声。頭に手を置かれ、見上げると、不二先輩は声と同じく優しく笑っていた。
 その表情に、何故か内心でがっかりしている自分がいる。
 菊丸先輩に言わせれば、俺は気に入られているらしいから、しょうがないんだろうけど。
 でも俺はこんな誰にでも見せてる笑顔は要らない。俺が欲しいのはあの時みたいな強い感情を込めた目。あんな目で、見つめられてみたい。
 って。俺は一体、何を考えて……。
「えーちーぜーんーくんっ。早くコート入らないと。乾汁飲まされるよ?」
「あ。はい。今行きまーす!」
 笑顔で呼ぶ不二先輩に、頭を振って考えを追いやると、俺は急いでコートへと入った。
 でも、と。不二先輩と対峙して思う。
 もしかしたら、これ、俺が先輩を追い詰めることが出来れば。あの目を見れるんじゃないかって。しかも、遠くらか観てるんじゃなく、正面から。
 可能性は、ゼロじゃない。
 そう思うと、俺は何故か嬉しくなって。さっきまでのランニングの疲れも、どっかに吹き飛んでしまったみたいだった。
(2010/03/12)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送