249.パラダイス(外部ファミリー)
 まるで楽園のようだとせつなは思った。
 愛すべき娘がいて、愛すべき友だちがいて。その二人が、今、自分を慕っている。
「ねぇ、プー。プーも一緒に遊ぼうよ」
「そうだよ、せつなママもそんなところで見てないで、一緒にやろう?」
「そうですね」
 ほたるとちびうさの呼びかけに、せつなはそれまで以上に顔を綻ばせると、家事に区切りをつけ二人の元へと向かった。
「プーも来たから、違う遊びにしよう」
 二人でやっていたカードゲームを中断し、何のゲームを始めようかと、ああでもないこうでもないとほたるとちびうさが話し合う。
 そんな姿すら愛おしく、せつなは二人を抱きしめたい衝動に駆られた。
 が、その時。
「ただいま」
「あっ。はるかパパ!おかえりっ」
「ただいま」
「みちるママもお帰りなさい」
 リビングに入ってきたはるかとみちるに、せつなは溜息を吐いた。正確には、帰ってきた二人に対するほたるの反応に、ではあるが。
「ねぇねぇ。はるかパパも一緒にトランプやろう!いっぱいいた方が、きっと楽しいから」
 はるかの元へ駆け寄ったほたるは、その手を掴むと、強引に自分の隣に座らせた。みちるが、その後ろに立つ。
「みちるは?」
「私は、夕飯の支度があるから」
 それに私は招待されていないみたいだし。はるかの耳元で呟いた声がせつなの耳にも入り、思わず溜息を吐く。
 本当に、この二人は。どうしようもないですね。
 それでも、今まで味わってきた孤独に比べれば、どんな状態であれ自分の周りに誰かがいてくれることに倖せを感じているせつなは、溜息を吐くとみちるの手を引いて自分の座っていた位置に座らせた。
「せつな?」
「夕食の支度は私がやりますから」
 ほたると仲良くしてくださいよ、とみちるに囁く。
「っと。せつなも座るんだよ」
 しかし、キッチンに向かおうとしたせつなの腕を今度ははるかが強く引いた。入れ替わりで、はるかが立ち上がる。
「はるか?」
「外から見てるだけなんて、それじゃあ今までと変わらないだろ?夕飯は僕が作るよ。おちびちゃんも食べてくんだろ?」
「うんっ!」
 はるかの言葉にちびうさが元気よく頷く。その姿にせつなが顔を綻ばせている間に、はるかはさっさとキッチンへと向かってしまった。
 申し訳なさそうにはるかの姿を見つめるせつなに、みちるが囁く。
「はるかって、なんだかんだいって一番せつなに優しいわよね。案外、ほたるよりもあなたのほうが私には危険なのかもしれないわ」
「まさか」
 弾かれたように否定するせつなに、冗談よ、と言うとみちるは笑った。
「なに二人で内緒話してるの?」
 でもほたるに気付かれたら、冗談じゃすまなくなるかもしれないわ。二人を不思議そうに見つめるほたるを見て、みちるはせつなに囁いた。そうですね、とせつなも苦笑しながら返す。それでも。
「なんでもなくってよ」
「さぁ、ゲームを始めましょう。結局、何をすることにしたんですか?」
「えっとねぇ」
「これこれ!」
 楽しげにカードゲームのルールを説明し始めるほたるとちびうさ。それに真剣に耳を傾けるみちる。背後からの、見守るような優しいはるかの視線。
 本当に、楽園ですね、ここは。
 例えこれが戦士の束の間の休息だとしても、この後で果てしない孤独が待っているとしても。せつなはこの思い出だけで充分に生きて行けるだろうと、そんなことを思った。
(2010/01/14)
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