２５４．秩序（不二塚）
「秩序とか規律とかを乱さないことが、君の行動の最低限のルールだったはずだよね」 「それが、どうかしたのか？」 「いや。僕たちのこの行為は君のルールには反しないのかなって」 「想いは互いに通じているのだから、問題はない」 「まぁ、それは、確かに。順序は間違ってはいないけど。普通とは、違うじゃない。手塚はそういうの、嫌いじゃなかったのかなって」 「好きな相手と肌を合わせたいと思うのは普通じゃないのか？この年齢になって性に興味がなかったら、その方が可笑しいだろう」 「まぁ、それも、確かに。いや、でも。性って。手塚は男とのことに興味があったの？」 「お前が男だからな」 「じゃあ僕が女だったら？」 「……分からない」 「えっ」 「勘違いをするな。女に興味が湧かないといってるわけではない。ただ、女であるお前に惚れるかどうかということが分からないんだ」 「それって、僕が男だから好きになったっていうこと？」 「そうじゃない。だが、今のお前を構成しているものの一つの要素として性別があることは確かだ。お前が女だったら、それはもう、不二周助ではない」 「なるほど、ね。でも、人は変わるものだよ、手塚。もしこの先、何年か経って。その時の僕が今の僕と違っていたら。振り返った君は、その時の僕を好きじゃなくなるのかな？」 「……それも分からないな」 「そう」 「だが、何も変わるのはお前だけじゃない。数年後のオレは、その時のお前を好きだと思うようになっているかもしれない」 「その時は、振り返った過去の僕を嫌いになる？」 「さあな」 「断言は、しないんだね」 「お前は不確かなものを無理矢理決め付けることを嫌うだろう？」 「まぁ、ね」 「だったらそもそも、そんな話はするな」 「……ねぇ、手塚」 「何だ？」 「僕のこと、好き？」 「自分で言ったことを忘れたのか？オレは秩序の乱れたことが嫌いだ」 「それは知ってる」 「嫌いな奴とはこんなことはしない」 「それも知ってる」 「だったらいいだろう？」 「でも、聞きたい。こういうことの後って、普通、愛を語らったりしない？」 「…………」 「ねぇ、手塚。さっきの僕の話でちょっと甘い空気がなくなっちゃったからさ。取り戻そう？……好きだよ、手塚。手塚は？」 「……ああ。オレも――」
(2010/01/26)